お久しぶりの投稿です。
今年の春は昨年のような急激な雪解けもなく、一昨年のような通常の春を迎えております。
このような気候の移り変わりであれば、ある程度の葡萄のポテンシャルが得られると思うので、9月以降の極端な暑さや夜温上昇等なければなぁと思う次第です。
ところで昨日、エコビレッジで進めているピースワインプロジェクトの関係でレバノンでワインを醸造している醸造家と話をしながら飲む機会がありました。
彼が来日した理由は、東京で開催されるRAW WINE tokyo 2024への参加、そしてピースワインプロジェクトを行っているエコビレッジでの植樹に参加することでした。ピースワインプロジェクトとは映画配給会社UNITED PEOPLEと余市エコビレッジが協業し、余市の地で栽培した葡萄からワインを醸造することを通し、多様な国籍・文化圏の人間が交流しワインを造り上げていって、その過程で人的交流が生まれ、ひいては世界平和を目指していく取り組みです。(https://upwine.jp/pages/yoichi)
そんな中で色々話をしたんですが、彼から日本ワインの海外での評価を聞きました。
大分意外だったことは、ラブルスカワインをメインに生産している本州の蔵を知っているか?と聞かれたことでした。その蔵の評価は高いですよね?と…。
これを聞いたときにの日本国内での日本ワインに対する評価(特にラブルスカで強気の価格設定をしている所)と海外の人からの日本ワインへの評価が少し乖離しているような雰囲気を感じました。
一般の飲み手ではなく、彼は25年間海外で醸造に携わっている人間だったので尚更でした。
また、日本酒の酵母菌で造ったワインはどうなのか?と。おそらく彼が言いたかったのは協会酵母を使用したワインはないのか?ということ。日本酒は非常に薫り高く、それを醸しだす酵母菌を使えばよりアロマティックなワインが出来ないのか?ということなんじゃないかと。
そもそもで日本酒は麹菌によるデンプンの糖化と酵母菌によるアルコール発酵の並行複発酵。海外ワインメーカーは糖からアルコールを産生するサッカロミセス属だけがSAKEを醸しているものと勘違いしているのか。デンプンを糖化させるワインには関係の無い麹菌がアスペルギウス・オリゼーであることや生酛や山卸廃止の生産工程なんかは理解していないのだろうなとは思ったものの、そんなことより日本酒の酵母菌で造ったワインは香高くて良いと言ったことが大分引っかかりました。日本酒の香り高さはアルコール発酵中の低温環境によるAATファーゼの活性化と、それとともに米に含まれる葡萄を遥かに凌ぐ量のアミノ酸から生成されるエステル香の元となる高級アルコールの豊富さです。それを引っ張るための一助として協会酵母が使われていますが、それがあるからこその日本酒の香りではありません。確かに一昔前のYK35に代表されるようなエステル香バンバンの日本酒も未だに人気はありますし、獺〇をはじめとする四季醸造で醸された薫り豊かな工業製品のような日本酒が海外でもてはやされている現状を鑑みるに海外の方からの日本酒を見る角度もなんだかな?と思う次第です。まぁ、海外へSAKEを売り出すときの売り文句がそれだったら仕方のないことなんですが…。
欧州の人からみた「日本」は極東の神秘の国、オリエンタルティックな印象を強く持っているようにも感じました。深くSAKEについて理解せずとも単純に感覚的に日本の伝統的なアルコール飲料は何か神秘的なものがあるといった感じなのか、と。
なので日本ワインを正面から見ているのではなく、「日本」という地に対してのセンチメンタルな感情を通してのワイン評という感じです。
それは例えば、シルクロードを長い時間をかけ、ようやくたどり着いた日本に甲州という名のヴィニフェラが存在していて、ワインが造られている、その事実を知った欧州人が甲州に対して強い関心を持つ人が一定数居ることにも共通することだと思います。
結局嗜好品のアルコール飲料は日本人も外国人も関係なく頭で飲んでいるんだなという感想です。
海外輸出のお話は有難いことにいただく機会もありますが、日本ワインが中身と価格のバランスが取れていないと思うことも多々あるようにも思い、持て囃されているウチが華だと感じてしまいます。それを履き違え、海外高級レストランで尋常ではない価格帯で提供されている現実。結果として率先して輸出を進めている蔵もありますが、国内消費に対して十分な量も供給できていない状況で海外進出とは甚だ可笑しな話だなと感じる次第です。国内消費で捌けきれず海外に出さざるを得ないワインも一定数ありますが、それが先の理由も相まって海外で存外評価されていることは本当に意外でした。
日本が色々な意味で沈没しつつあって、今後のマーケティングを考えた上での海外進出、或いは逆輸入的に持て囃されるワインを目指すというパワーがあるのなら…売り方以上にワイン造りに心血を注いでみても?とも思いました。