2024シーズンの仕込みがいよいよ始まります

黒葡萄の色合いも深まり、いよいよ収穫のシーズンが間近と迫ってきました。
昨年の酷暑が嘘のように今シーズンは気温の推移が穏やかだった為、葡萄たちにはとても良い環境のようでした。体感的に9月下旬現在、朝晩は肌寒さを感じるような気候となっている余市です。
葡萄たちの状況は、驚くほど病気が無く、早い時期からの夜温の下がりのお陰もあり、酸を残しつつ、ゆっくりじっくり熟度が上昇するような理想的な環境となっています。そして、今年は花時期の天気が安定していたおかげで実の付き方も良く、全体収量は過去最高になる予定です。

そして何より有難いのは葡萄のポテンシャルがここ最近ではあまり見ないような(21vt除)分析値となっています。

実のところ、今シーズンの初めのころは「もう今までのような北海道の気候は来ないだろうな…」、「今年も暑い夏が長く続いて夜温も下がらず、23vtのような感じになるのだろうな…」と、半ば諦めに近い感情がありました。23vtの酷暑は葡萄への影響がとても大きく、その状況を目の当たりにしていたせいもあり、数年以内に晩腐病の蔓延や渡り鳥の滞留による鳥害の増加、極度の酸抜けとPh上昇が絶対に起こることを覚悟していました…。
ところが一転、今シーズンはお盆過ぎから夜温の低下が起こり、昼間の気候も9月には秋の様相を呈していました。今では立派な(?)秋らしい秋となっています。

ですが、やはりここ最近の本州の気温を見る限り(静岡で9月下旬40度近いって衝撃です…)どうひっくり返っても北海道が今後もずっとこんな気候であるはずがないと思っています。

せっかくやってきた恵まれた気候です。これが余市という産地で酸を残しつつ、適度に熟した葡萄が得られる最後のチャンスかもしれないのです。
このチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
なので、今シーズンは高アルコールになろうとも熟度を上げることを第一に考えて収穫日程を決めました。
状態が良ければ一部白品種は11月収穫でも良いと思っています。
周辺では早生系の収穫が数日前から始まっていますが、自分の圃場ではスティル用葡萄は来月中旬以降です。
「もうこの気候を経験できない」可能性があるし、「今シーズンのような葡萄を使って醸造は出来ない」と、ある種の「緊張感」を持って醸造に取り掛かかります。

先ほども記載しましたが、余市だけではなくて北海道の気候が年々変わってきています。
冬の寒さも2月の極寒期以外はベタ雪が降るような気候が増えました。雪の降り方もスコールのように局所的にガバっと纏まって降ることが多くなりました。
夏は夏で暑さの質が変わりました。太陽光のジリジリ感が強くなり、北海道では感じたことのない痛みような暑さを受けるようになりました。
夏のこのイメージは私が埼玉に住んでいた小中学生の頃のようです。当時は日射病という言葉でしたが、30℃を超えたら日射病になるので外で遊ばず、日影や家にいましょうと言われていたように思います。光化学スモッグ注意報も良く流れていました。
これが今から30年前の話。なので北海道もあと30年もすれば今の関東のような気候になりかねないと思うのです。
もうそうなったら、まともな葡萄は取れず、まともなワインが造れるわけがないと思うのです…。

だからこそ、今シーズンは残り少ないチャンスだと思っています。だからこそ葡萄が熟すのを待ちたい。。

閑話休題。

少し話題がかぶるところもありますが、北海道の葡萄であれば醸造的にうまくできていなくてもある程度美味しいとされるワインが造れていました。
ですが、それは今までの事だと思っています。

この地域の生産者の22vtや23vtのワインを飲むとはPhが高い印象がどれもあります。加えて全房比率が高い醸しを経ていると余計にそれが目立つ感じです。
酸化させる造りだと更に余計に取れます。どれも似たような余韻に収束されていく印象なのです。
農家のお祖母ちゃんが家で作る漬物と同じようにワインを造ると話す方もいらっしゃいますが、自分は全く同調できません。
農家のお祖母ちゃんは菌抑制をする魔法の材料を使っています。
それは味噌も醤油も同じで、長く食料を保存をするための発酵食品製造には欠かせない必須のモノです。
その正体は「塩」です。
塩が無ければ農家のお祖母ちゃんはマトモな長期保存が可能な発酵食品は絶対に造れません。
全国で唯一、塩を使わない「すんき」という漬物が岐阜と長野の一部地域で作られていますが、それは乳酸菌と酢酸菌をうまく利用して作っています。しかし、ある種の職人技的なものが必要で、今では農家でも作っている家は相当に減っています。一部食品メーカーで作っているものでも???という商品があるくらいです。ウチではスンキ用の在来品種の蕪を栽培し、スンキを作っていたこともあります。参考にしようと食品メーカー数社からスンキを取り寄せたことがありましたので、この辺のことは分かっているつもりです。

漬物をはじめとした発酵を伴う保存食品の「塩」をワインに置き換えると、それは「亜硫酸」だと思っています。
別に亜硫酸を称賛し、使うべきだ!なんていう気は更々ありません。少ない方が良いし、0に出来るなら使わないのが良いです。
現にウチのワインでもサンスフルのモノがいくつもあります。

ここにおいて問題だと思うのはマーケティングや耳触りの良い、ある種の「お花畑」的な印象を俗にいう自然派ワインに持たせることへの違和感です。
微生物学や発酵学、食品科学、或いは公衆衛生学等を勉強したことのある人は勿論、食品を扱う職業に就いている方々は微生物への危機意識というものが如何に大事かを理解しています。しかし、ことワインの話になると神秘性というか感情に訴えることがまず初めに来てしまい、微生物への意識が薄らぎます。
微生物の世界がもやしもんのような菌の世界ではあるものの、それを抑制しない方が美味しいワインが造れるなどということはないと思っています。
なので、サニテーションは大事ですし、亜硫酸も使う必要がある時は使わなければならないと思います。

亜硫酸を使わないことを目的としたワインも目に付くようになってきました。
はっきり言って順番が逆ですし、サンスフルという文言がマーケティング的に売れるとでも思っているのかもしれません。
新規参入者でそのようなワインを造っている人を見ると何だかなと思う自分が居ます。
「造りたい、目指したいワインを醸造していたら結果的に亜硫酸を使わなくても良かった」なら良いと思うのです。

先の話に戻りますが、北海道では亜硫酸を用いなくても良いワインが造れるポテンシャルの葡萄が栽培できていました。
しかし、もう違うと思うのです。
今年の気候は特別でも来年以降は分かりません。現に22vt、23vtは今までにないPhの高いワインが目立ち、モノによっては全房醸しを行ってカリウムイオンをより抽出させ、結果的に酒石酸水素カリウムを多く析出させ、更にMLFにおけるMLEやMEの影響で、最終的なPhが非常に高くなり分子状二酸化硫黄の存在量が1%以下となり、最終的にヘテロ型乳酸桿菌が酵母が資化できない5単糖や4単糖を資化したり、総酸低下による酒石酸からの酢酸生成、或いは極僅かに残った糖からの酢酸生成を行っているのだろうなというワインが目についてきました。さらにこの乳酸桿菌の働きが進むとリシン由来のアセチルテトラヒドロピリジン、オルニチン由来のアセチルピロリンの香り(俗にいうネズミ臭や豆臭)が出てきているワインもあります。
豆が出るとしつこいものは瓶熟しても飛ぶことはありません。

だから今まで問題が起こっていなかったやり方でのワイン造りをしても今後は上手くはいかないと思っています。
しっかり化学、生物学、醸造学を踏襲した上で、やりたいならばナチュラルな造りを行う必要があると思うのです。
北海道は今までは産地の優位性から高ポテンシャル葡萄が収穫できる土地でした。そこに造り手たちの甘えがあったのだと個人的には感じます。

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