2024シーズンの仕込みがいよいよ始まります

黒葡萄の色合いも深まり、いよいよ収穫のシーズンが間近と迫ってきました。
昨年の酷暑が嘘のように今シーズンは気温の推移が穏やかだった為、葡萄たちにはとても良い環境のようでした。体感的に9月下旬現在、朝晩は肌寒さを感じるような気候となっている余市です。
葡萄たちの状況は、驚くほど病気が無く、早い時期からの夜温の下がりのお陰もあり、酸を残しつつ、ゆっくりじっくり熟度が上昇するような理想的な環境となっています。そして、今年は花時期の天気が安定していたおかげで実の付き方も良く、全体収量は過去最高になる予定です。

そして何より有難いのは葡萄のポテンシャルがここ最近ではあまり見ないような(21vt除)分析値となっています。

実のところ、今シーズンの初めのころは「もう今までのような北海道の気候は来ないだろうな…」、「今年も暑い夏が長く続いて夜温も下がらず、23vtのような感じになるのだろうな…」と、半ば諦めに近い感情がありました。23vtの酷暑は葡萄への影響がとても大きく、その状況を目の当たりにしていたせいもあり、数年以内に晩腐病の蔓延や渡り鳥の滞留による鳥害の増加、極度の酸抜けとPh上昇が絶対に起こることを覚悟していました…。
ところが一転、今シーズンはお盆過ぎから夜温の低下が起こり、昼間の気候も9月には秋の様相を呈していました。今では立派な(?)秋らしい秋となっています。

ですが、やはりここ最近の本州の気温を見る限り(静岡で9月下旬40度近いって衝撃です…)どうひっくり返っても北海道が今後もずっとこんな気候であるはずがないと思っています。

せっかくやってきた恵まれた気候です。これが余市という産地で酸を残しつつ、適度に熟した葡萄が得られる最後のチャンスかもしれないのです。
このチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
なので、今シーズンは高アルコールになろうとも熟度を上げることを第一に考えて収穫日程を決めました。
状態が良ければ一部白品種は11月収穫でも良いと思っています。
周辺では早生系の収穫が数日前から始まっていますが、自分の圃場ではスティル用葡萄は来月中旬以降です。
「もうこの気候を経験できない」可能性があるし、「今シーズンのような葡萄を使って醸造は出来ない」と、ある種の「緊張感」を持って醸造に取り掛かかります。

先ほども記載しましたが、余市だけではなくて北海道の気候が年々変わってきています。
冬の寒さも2月の極寒期以外はベタ雪が降るような気候が増えました。雪の降り方もスコールのように局所的にガバっと纏まって降ることが多くなりました。
夏は夏で暑さの質が変わりました。太陽光のジリジリ感が強くなり、北海道では感じたことのない痛みような暑さを受けるようになりました。
夏のこのイメージは私が埼玉に住んでいた小中学生の頃のようです。当時は日射病という言葉でしたが、30℃を超えたら日射病になるので外で遊ばず、日影や家にいましょうと言われていたように思います。光化学スモッグ注意報も良く流れていました。
これが今から30年前の話。なので北海道もあと30年もすれば今の関東のような気候になりかねないと思うのです。
もうそうなったら、まともな葡萄は取れず、まともなワインが造れるわけがないと思うのです…。

だからこそ、今シーズンは残り少ないチャンスだと思っています。だからこそ葡萄が熟すのを待ちたい。。

閑話休題。

少し話題がかぶるところもありますが、北海道の葡萄であれば醸造的にうまくできていなくてもある程度美味しいとされるワインが造れていました。
ですが、それは今までの事だと思っています。

この地域の生産者の22vtや23vtのワインを飲むとはPhが高い印象がどれもあります。加えて全房比率が高い醸しを経ていると余計にそれが目立つ感じです。
酸化させる造りだと更に余計に取れます。どれも似たような余韻に収束されていく印象なのです。
農家のお祖母ちゃんが家で作る漬物と同じようにワインを造ると話す方もいらっしゃいますが、自分は全く同調できません。
農家のお祖母ちゃんは菌抑制をする魔法の材料を使っています。
それは味噌も醤油も同じで、長く食料を保存をするための発酵食品製造には欠かせない必須のモノです。
その正体は「塩」です。
塩が無ければ農家のお祖母ちゃんはマトモな長期保存が可能な発酵食品は絶対に造れません。
全国で唯一、塩を使わない「すんき」という漬物が岐阜と長野の一部地域で作られていますが、それは乳酸菌と酢酸菌をうまく利用して作っています。しかし、ある種の職人技的なものが必要で、今では農家でも作っている家は相当に減っています。一部食品メーカーで作っているものでも???という商品があるくらいです。ウチではスンキ用の在来品種の蕪を栽培し、スンキを作っていたこともあります。参考にしようと食品メーカー数社からスンキを取り寄せたことがありましたので、この辺のことは分かっているつもりです。

漬物をはじめとした発酵を伴う保存食品の「塩」をワインに置き換えると、それは「亜硫酸」だと思っています。
別に亜硫酸を称賛し、使うべきだ!なんていう気は更々ありません。少ない方が良いし、0に出来るなら使わないのが良いです。
現にウチのワインでもサンスフルのモノがいくつもあります。

ここにおいて問題だと思うのはマーケティングや耳触りの良い、ある種の「お花畑」的な印象を俗にいう自然派ワインに持たせることへの違和感です。
微生物学や発酵学、食品科学、或いは公衆衛生学等を勉強したことのある人は勿論、食品を扱う職業に就いている方々は微生物への危機意識というものが如何に大事かを理解しています。しかし、ことワインの話になると神秘性というか感情に訴えることがまず初めに来てしまい、微生物への意識が薄らぎます。
微生物の世界がもやしもんのような菌の世界ではあるものの、それを抑制しない方が美味しいワインが造れるなどということはないと思っています。
なので、サニテーションは大事ですし、亜硫酸も使う必要がある時は使わなければならないと思います。

亜硫酸を使わないことを目的としたワインも目に付くようになってきました。
はっきり言って順番が逆ですし、サンスフルという文言がマーケティング的に売れるとでも思っているのかもしれません。
新規参入者でそのようなワインを造っている人を見ると何だかなと思う自分が居ます。
「造りたい、目指したいワインを醸造していたら結果的に亜硫酸を使わなくても良かった」なら良いと思うのです。

先の話に戻りますが、北海道では亜硫酸を用いなくても良いワインが造れるポテンシャルの葡萄が栽培できていました。
しかし、もう違うと思うのです。
今年の気候は特別でも来年以降は分かりません。現に22vt、23vtは今までにないPhの高いワインが目立ち、モノによっては全房醸しを行ってカリウムイオンをより抽出させ、結果的に酒石酸水素カリウムを多く析出させ、更にMLFにおけるMLEやMEの影響で、最終的なPhが非常に高くなり分子状二酸化硫黄の存在量が1%以下となり、最終的にヘテロ型乳酸桿菌が酵母が資化できない5単糖や4単糖を資化したり、総酸低下による酒石酸からの酢酸生成、或いは極僅かに残った糖からの酢酸生成を行っているのだろうなというワインが目についてきました。さらにこの乳酸桿菌の働きが進むとリシン由来のアセチルテトラヒドロピリジン、オルニチン由来のアセチルピロリンの香り(俗にいうネズミ臭や豆臭)が出てきているワインもあります。
豆が出るとしつこいものは瓶熟しても飛ぶことはありません。

だから今まで問題が起こっていなかったやり方でのワイン造りをしても今後は上手くはいかないと思っています。
しっかり化学、生物学、醸造学を踏襲した上で、やりたいならばナチュラルな造りを行う必要があると思うのです。
北海道は今までは産地の優位性から高ポテンシャル葡萄が収穫できる土地でした。そこに造り手たちの甘えがあったのだと個人的には感じます。

海外からみた日本のワインについて

お久しぶりの投稿です。

今年の春は昨年のような急激な雪解けもなく、一昨年のような通常の春を迎えております。
このような気候の移り変わりであれば、ある程度の葡萄のポテンシャルが得られると思うので、9月以降の極端な暑さや夜温上昇等なければなぁと思う次第です。

ところで昨日、エコビレッジで進めているピースワインプロジェクトの関係でレバノンでワインを醸造している醸造家と話をしながら飲む機会がありました。
彼が来日した理由は、東京で開催されるRAW WINE tokyo 2024への参加、そしてピースワインプロジェクトを行っているエコビレッジでの植樹に参加することでした。ピースワインプロジェクトとは映画配給会社UNITED PEOPLEと余市エコビレッジが協業し、余市の地で栽培した葡萄からワインを醸造することを通し、多様な国籍・文化圏の人間が交流しワインを造り上げていって、その過程で人的交流が生まれ、ひいては世界平和を目指していく取り組みです。(https://upwine.jp/pages/yoichi)

そんな中で色々話をしたんですが、彼から日本ワインの海外での評価を聞きました。
大分意外だったことは、ラブルスカワインをメインに生産している本州の蔵を知っているか?と聞かれたことでした。その蔵の評価は高いですよね?と…。
これを聞いたときにの日本国内での日本ワインに対する評価(特にラブルスカで強気の価格設定をしている所)と海外の人からの日本ワインへの評価が少し乖離しているような雰囲気を感じました。
一般の飲み手ではなく、彼は25年間海外で醸造に携わっている人間だったので尚更でした。

また、日本酒の酵母菌で造ったワインはどうなのか?と。おそらく彼が言いたかったのは協会酵母を使用したワインはないのか?ということ。日本酒は非常に薫り高く、それを醸しだす酵母菌を使えばよりアロマティックなワインが出来ないのか?ということなんじゃないかと。
そもそもで日本酒は麹菌によるデンプンの糖化と酵母菌によるアルコール発酵の並行複発酵。海外ワインメーカーは糖からアルコールを産生するサッカロミセス属だけがSAKEを醸しているものと勘違いしているのか。デンプンを糖化させるワインには関係の無い麹菌がアスペルギウス・オリゼーであることや生酛や山卸廃止の生産工程なんかは理解していないのだろうなとは思ったものの、そんなことより日本酒の酵母菌で造ったワインは香高くて良いと言ったことが大分引っかかりました。日本酒の香り高さはアルコール発酵中の低温環境によるAATファーゼの活性化と、それとともに米に含まれる葡萄を遥かに凌ぐ量のアミノ酸から生成されるエステル香の元となる高級アルコールの豊富さです。それを引っ張るための一助として協会酵母が使われていますが、それがあるからこその日本酒の香りではありません。確かに一昔前のYK35に代表されるようなエステル香バンバンの日本酒も未だに人気はありますし、獺〇をはじめとする四季醸造で醸された薫り豊かな工業製品のような日本酒が海外でもてはやされている現状を鑑みるに海外の方からの日本酒を見る角度もなんだかな?と思う次第です。まぁ、海外へSAKEを売り出すときの売り文句がそれだったら仕方のないことなんですが…。

欧州の人からみた「日本」は極東の神秘の国、オリエンタルティックな印象を強く持っているようにも感じました。深くSAKEについて理解せずとも単純に感覚的に日本の伝統的なアルコール飲料は何か神秘的なものがあるといった感じなのか、と。
なので日本ワインを正面から見ているのではなく、「日本」という地に対してのセンチメンタルな感情を通してのワイン評という感じです。
それは例えば、シルクロードを長い時間をかけ、ようやくたどり着いた日本に甲州という名のヴィニフェラが存在していて、ワインが造られている、その事実を知った欧州人が甲州に対して強い関心を持つ人が一定数居ることにも共通することだと思います。

結局嗜好品のアルコール飲料は日本人も外国人も関係なく頭で飲んでいるんだなという感想です。
海外輸出のお話は有難いことにいただく機会もありますが、日本ワインが中身と価格のバランスが取れていないと思うことも多々あるようにも思い、持て囃されているウチが華だと感じてしまいます。それを履き違え、海外高級レストランで尋常ではない価格帯で提供されている現実。結果として率先して輸出を進めている蔵もありますが、国内消費に対して十分な量も供給できていない状況で海外進出とは甚だ可笑しな話だなと感じる次第です。国内消費で捌けきれず海外に出さざるを得ないワインも一定数ありますが、それが先の理由も相まって海外で存外評価されていることは本当に意外でした。
日本が色々な意味で沈没しつつあって、今後のマーケティングを考えた上での海外進出、或いは逆輸入的に持て囃されるワインを目指すというパワーがあるのなら…売り方以上にワイン造りに心血を注いでみても?とも思いました。

僕には人を惹きつけるようなワードセンスがない

ご無沙汰しています。
ここ最近ブログの更新を全くしていませんでした。
意外と生産者さん(そこのあなたです…笑)が閲覧しているようで、思っていることを何でもぶっちゃけるのは如何なものかと最近思うようにもなりました 笑

ところで、今シーズンはとても作業量が増えました。
原因はおそらく雨と高温による新梢の旺盛な発育に起因します。
枝整理をやってもやっても追いつかない。
枝整理を怠ると葉ベトが多発。本葉に出なければ大丈夫と思いつつも、私なりの考えで葉数はもともと少なく調整しているので微妙なところ。
そのため今シーズンはベトとの共存という感じでやっていってます。来年の枝の登熟は問題ない範囲くらいの被害です。
まぁ実ベトがあまり出なかったのは例年と同じでしたが、葉のベト罹病率はだいぶ高かったです。

高温多湿以外にベトが多いなぁと感じることになった理由としてクロヒメゾウムシの多発があげられますかね。
今シーズンは俗にいうチョッキリ虫に開花位から結果枝を切られまくり、意図しない超早期摘芯が行われた形になりました。
直後に側芽が芽吹いてズバーーッと伸びてくるんですが、やっぱり本来ならば来年芽吹く芽なのでデンプンをはじめとしたエネルギーの蓄積も少なく、出てくる葉は本葉と比べると葉緑素が少なくて弱弱しいものです。当然ベトの餌食です。
超早期摘芯された結果枝の側枝がベト病に罹病するケースが多いのです。超早期摘芯を行うと花が振るわず、立派な房が出来ることもよく分かったのですが、葉が確保できないので切り落とすことも儘あります。

こんな感じの今シーズンでしたが、収量としてはピノブランの収量が上がりそうで、全体としては過去最大の収穫となる感じです(この後何もなければ…)
今年の仕込は色々とやってみたいこともありますが、蔵状況と相談しつつ作業に取り掛かろうと思います。

収穫まで1か月を切りました。
9月は見守る時間が増えそうですが、畑作業に勤しみたいと思います。

将来の葡萄産地をかんがえてみた

北海道の特に余市・仁木エリア、そしてモンティーユが入植したという事で函館、また岩見沢は、葡萄産地としてもしかしたら世界的に注目を集めつつあるのかもしれません。
そう感じたのは今年度の余市町の協力隊の隊員に香港人と台湾人が入り、今後も余市町でワインに携わりたいという意向があるという事を聞いたからでした(人伝ですが)

冬の間、今後この葡萄産地がどのような変遷を辿るのか色々考えを巡らせていました。
何となくですが、最近だとこのエリアでは個人の新規入植希望者が減り、逆に法人が増えてきた印象があります。
もしかしたら役場で帰らされている個人がいるのかもしれませんが。
異業法人からの新規農業参入については全く否定するつもりはないですが、問題はその先にあると考えています。

この地域は首長や発言力のあるワイン関係者含め、法人格の受け入れについては前向きな印象があります。

異業法人の新規参入となると3,4年という短いスパンでの損益について考えることが多いのかな?と考えています。
現に一昨年仁木町にあった、ある法人管轄のヴィンヤードは札幌の法人へ畑を売りました。
岩見沢方面でもワイナリーの売買の話も聞きますし、余市・仁木では個人から生産法人への畑販売もよく聞きます。
今であればワイン葡萄畑ならば農地購入時より高価格で転売が可能な場合も十分にあると思います(農業委員会が絡まない形を取れば)
異業種から来たのであれば投機的な志向を持ちつつ営農を行うことは当然ですし、ほぼ居ないですが個人でやっていてもそうなのかな?と感じる方も中にはいます。

そこで将来起こるのではないか?と感じていることが、海外資本への農地販売です。
これについては農地法第3条が発動し、農業委員会の監視があるため農地売買については制限がかかるのでは?とお思いかもしれません。
ただ、これには抜け道があります。
例えば法人Aが個人の農業者から農地を購入し、農業生産法人Bを設立したあと3,4年経営し、販売したい意向が出てきたときに購入意志のある法人Cが農業生産法人Bごと買収するケースです。
M&Aという言い方が合っているのか分かりませんが、企業買収を行う場合は代表者の名前が変わるだけであって、農業委員会から見た時の農業生産法人Bの存在は変わるものではありません。
そのため、この際の企業間売買においては農業委員会が出てくることはありません。

ここからが私が不安視していることです。

ご存じの通り、北海道の土地は現在水資源、観光資源含め海外資本に購入されていっています。
隣村のkiroroスキーリゾートやTOMO PLAYLAND、ニセコ町のスキーリゾートなどはその典型だと思います。
不安なところというのは、昨今の日本ワインブームを背景にワイン葡萄産地としての認知度が上がりつつある、余市や仁木、函館のヴィンヤード、ワイナリーに対し、食指が動いている海外資本があるのではないかという事です。
現に今年度から協力隊としてやってきた香港や台湾の方は北海道のワインに興味を持っていることから、海外の人たちが興味を持ち始めていることは事実だと思います。
そこに対して3,4年で利益が出ず、当初から投機的な意味合いも含めて農地を運営していた日本の農業法人に海外資本が購入意志を持っていることが分かれば農地を売らないわけがないのかな?と感じています。

これについては北海道だけの問題なのかな?とは思っている部分はあります。
理由としては、北海道については農地を「売ること」についてのハードルが低いことが挙げられます。

また、ニセコが海外資本だらけのスキーリゾートとなった背景には2000年代前半にNACを創業したロス・フィンドレー氏の存在があります。
彼がニセコの自然や雪質の高さに驚き、海外へその魅力を発信したことが現在のニセコ山田地区を形成させています。
そうなるとニセコの時のように現地に繋がりを持つ海外の方がワイン葡萄関係の仕事に就くという事が資本力のある法人の参入を誘導することもあるのかな?と考えてしまう自分がいます。

北海道のワイン産地にはそのポテンシャルがあるようにも思いますし、海外からの入植を目指す人が来た現状から考えるに海外資本によるヴィンヤードやワイナリー経営も近い将来始まるかもしれません。
それが良いことなのか悪いことなのかは分かりません。
しかし自分は静かに静かに、例えば紙に水が滲んでいくように徐々にじんわりと北海道のワインのことが世間に広まれば良いなと感じています。
前のめり、食い気味な感じで北海道のワインを世界へ向けて発信しようとする意志には危うさを感じています。

年が明けました

2023年が始まりましたね。
今年は剪定が昨年中に終わり、ゆっくりとした年始を送っています。
醸造は今年で7年目に突入しますが、まだまだ分からないこともあり、目指すべきワインのスタイルはあるも如何に近づけるか、畑作業から見つめなおし自分の中で思考の反芻を行っていく次第です、鹿を追いつつ…。
先シーズン学んだことは、醸造とは北風と太陽なんだということです。
収穫した葡萄に無理強いしても納得出来るワインを造ることは出来無いと感じました。
自分の理想はあるのかもしれませんが、エゴでそれを頑なに目指すのは違うのではいかと。
この土地で、自分の目指すべきワインを造りだすために必要な葡萄を畑作業で…というのは第一にありますが、やはりその年の天候に逆らうことは出来ません。
葡萄の熟度(糖度ではなく、熟度です)は異なりますし、酸やPH、そしてアミノ酸の含量、ひっくるめると葡萄の果粒を組成するすべての物質のバランスが年により異なるのです。
自分の目指す、造ってみたいワインは何なのか。それを造るために醸造上、どこでどのような手を加えるべきなのか、何となく掴めているような気はします。
ですが、葡萄のポテンシャルは先にも述べましたが、年のより大いに異なります。

極端な例ですが、雨が多く、日照時間も平年より少ない年の葡萄は病気が多くなることが考えられます。
そうなると植物は自身の繁栄を考え、種を守るため、平年よりファイトアレキシンなどフィトクロームに富んだ葡萄を実らせるかもしれません。
また、雨が多いため樹中に還流する水分は多くなり、平年より果粒がNを吸収しているかもしれませんし、酷いと水っぽい果粒になっている可能性もあります。
ファイトアレキシンやアンティシピンは、ある種のフェノールに分類されますが、人にとってはエグミや未熟さにも直結する可能性があります。
例えば、このような黒葡萄で赤ワインを造ろうとしたとき、自分の目指すスタイルが旨味、甘みのあるタニックさもありつつ、骨格としての酸もメリハリがつくレベルで残したいとなると醸造上、抽出が非常に困難になると思います。
つまり、元々の葡萄のポテンシャル以上のワインは出来ないということです。
造り手は、葡萄の持っているポテンシャルの中で醸造を行わなければならないため、無理なことを行えば必ず何かしらの弊害が香り、味に表出してきます。
造りたい人間のエゴから生まれるワインは惹きつけるものが薄く感じられるのはそういうこともあると考えます。
大量生産、画一的な造り、添加物の使用、ろ過、培養酵母等々。
更に付け加えるならば、年により造りを変化させない画一的な醸造については規模の大小は関係ないとも思います。

言い換えると、毎年同じ造りを行うことは葡萄のポテンシャルを活かせていない状況だと私は考えます。
つまり、自分の造りたいワインの着地点にある程度の幅を持ちつつ、譲れない根っこ部分をぶらさず、その上に作り上げる構成要素を変えられれば良いのではと考えます。
余市の葡萄は11月近くまで吊るせば糖度はある程度行くことが分かっています。
しかし、先にも述べたようにそれ以外の要素は年による違いが大いにあるのです。

北風と太陽。
無理強いしても葡萄は笑顔になってはくれませんし、逆に引き出せるものがあるにもかかわらず同じ造りを行うことは勿体ないことです。

やっぱり思うこと

2022vt仕込みも大詰めとなり、醸造シーズンの岩見沢生活も両手で数えるほどになりました。

自分なりに病果が広がらない範囲で引っ張れるだけ引っ張りました。
収穫の大多数は10月の下旬に固まる感じになり、食味・分析値においても満足しています。
収量も順調に伸びました。
窒素の循環を考えた時にちょうど良いレベルで畑が維持できる収量くらいに落ち着いたことはとても良かったです(収量コントロールをした上で)
今のことろ発酵は順調で、白のいくつかは発酵が終了しつつあります。
赤はコールドソーク中です。
下部のマストではサッカロミセス属が弱く、ですがしっかりと発酵を続け、ベリー内では酵素によるアルコール置換が行われています。

所で、岩見沢シェアハウスのメンツと先日飲んだ時改めて思ったことがあります。
それは農業に取り組む姿勢、意識について。
自分は有機だとか自然農だとか慣行農法だとかぶっちゃけ葡萄の質においてはそこまで変わらないと思っています。
なので、有機「だから」、自然農「だから」という理由で異様に高い価値を付けるのは違和感があるのです(付加価値はあると思います)
野菜にしろ、ジュースにしろ、もちろんワインも。
そして、最近有機、オーガニックだとか殊更強調される風潮がありますが、本質はそんなことではないということです。
「その人間が何を目的に農業をしているのか」
その点だけです。

有機JAS認証でも使える資材はご存じの通りいくつもあります。
その中には認められている「農薬」もあります。
他には分解されないとのことで、シリコン製の刈払いブレードやナイロンコード、CCA木杭(CCAは相当に疑問符が付きますが)なんかもそうです。

でも、有機を謳う条件さえ満たせば何を行ってもいいのでしょうか?(それ以前にそれすら満たしてもいない人も大勢いますね)

有毒性が多方面から指摘されているCCAは有機でも認められているから普通に使う(今後有機認証はされないはずです)、ナイロンコードは目に見えないくらい細かく刻まれて畑に飛散し、回収はできなくなるけれども有機での使用が禁止されていないからいくらでも使う(これ喰う動物がいないだけでマイクロプラスティック問題と同じですから)
CCA処理の資材に関しては本当に危険だと確信しています。
野積みにしている状態で経年させると土壌へのヒ素、クロムの流出が顕著で植物や地下水への影響が高確率で発生することが証明されています(銅はそこまで高くないとの報告)もちろん野焼きなど論外です。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010781048.pdf
昭和40、50年代に発表されている古い文献にはCCAは環境、人体に対して問題ないという報告が見られますが、近年の報告を見る限りその根拠には相当に疑問があります。
本当にCCAの使用だけは控えてもらいたいです。
あと有機JAS認証では認められていませんが光分解性テープナーについても同じです。
あれは分解ではなく、劣化→崩壊という流れです。
光による劣化でプラスチックが硬化し、その後崩壊していくというものだと思います。
畑には目に見えないだけでいつまでも細かいプラスチックが残留しますよ。
M〇Xに問い合わせましたが、成分など詳しいことは企業秘密のようでお教えくださいませんでした。
乳酸菌が作っている生分解性マルチとは別物です(これも有機JASでは使用できませんが)

結局、これらって本人が何を目的にしているのかというと「有機」という言葉を使いたい、その一点だけだと思うのです。
これらを使うと確かに作業は大幅に楽になります。
木杭の打ち換えは必要ありませんし、葡萄の樹を傷つけるリスクも減る。
でもそれって、未来に残す畑環境や地球環境、経済面以外の永続的な営農に繋がることなんでしょうか?

私には疑問です。

私は有機でやっているのであれば、有機JASは常々取るべきだと考えています。
書類が面倒、余計な出費なんてのは言い訳でしかないと思います。
取るべきだと考える理由は、「有機」「オーガニック」を言いたいからではありません。
過去にもこのブログで記載しましたが、一つは消費者への担保としてです。

顔の見える関係で地域内で消費される米や野菜を自然農や有機で栽培しているのであれば有機JASなんか取る必要など全くないと考えています。
ですが、加工品、特にワインなどは、「いつ・誰が・どのvtを・どこで」消費するか分かりません。
有機のみにこだわって飲むワインを選択している人はそう多くはないと思いますが、そのような人たちに何も言わずこのような第三者機関の認証は担保となると思うのです。逆に、例えばですが自然農や有機で野菜類を育て、お客さんの大多数が顔の見える関係を築けているような素晴らしい環境下であるのならば、有機JAS認証を取る必要は全くないと考えています。なぜなら、お互いがその人となりを理解しあい、互いに信頼関係が築けているからです。
私が調査対象にしていたCSAの営農形態は正にそのような営農形態ですね。

ちなみにここ最近有機加工酒類(醸造所の有機認証)についても管轄が国税から農水に変わったことで、ある意味お酒においても有機認証を取得しやすくなりました。
ですが、自分はそこに対しては全く興味がありません。
この大地で農業を行う上での考え、指針、哲学においてやっていることがJAS有機認証の延長線上にあるからだけで、醸造所での認証には意味がないと思うからです。
なのでワインのエチケットに有機JAS認証マーク貼りたいとは全く思いません。

加えて似非有機農業の跋扈も気になります。
そもそも有機JAS法が制定された背景は、90年代後半に市場にあふれた数多くの似非有機農産物に端を発します。
少しでも有機肥料を与えたから「有機」農産物を謳うなんてことはザラにありました。
自分も今から15年くらい前に有機農家の経済分析を行っていましたが、自称有機農家の行っていることの「いい加減さ」も多く見てきました。
大概彼らは有機JASを見下していますが、有機JASを取得できるのは半数も居ない印象でした。
でも、今跋扈しているそれは本質的には90年代後半に起こったことと大差がないと感じています。
それは文句としての「有機」が欲しい人たちという共通項が見えるからなんだと思います。

自分は環境に負荷をかけない永続的な生活を送りたいという想いで農業に携わっています。
その上で先ほどの理由が加わり有機JAS認証を取っています。
なので、有機JASで認められていても使っていない資材は数多くあります。
聞かれれば答えますが、積極的にそれを言う気もありません。

自分に正直に正々堂々と営農、醸造を行い続けたいを改めて思った飲み会でした。

知れば知るほど

備忘録としてシコシコ書いているブログという認識でしたが、意外と閲覧しているモノ好きな人が居らっしゃるようです 笑

2022vtの畑仕事が折り返しくらいに来ました。
今ヴィンテージは開花期に若干気温が低かったことと天気がよろしくなかったこともあり、振るった場所も一部ありました。
ただ、全体的には結実は良く、後は台風さえなければ収量は問題なさそうです。

最近は、犬の散歩を終えてから畑仕事までの時間で醸造について学んでいます。
エルゼビアやグーグルスカラーとかで文献を見つけてアブスト見るだけでも面白いです。
最近の翻訳機能はすごいですね 笑
自分は曖昧な感じではなくて深く掘って自分なりの答えを掴みたい質なので、醸造期間以外に色々知ることは良いことだと思っています。
このことを10月からの実践で自分の中ですり合わせ、落とし込んでいければより良いと思っています。
緩さやぼんやり感は取り合えず今はいいかな。

改めて感じるのは俗に謂うナチュラルなワイン醸造においてカギになるのは乳酸菌なんだろうということ。
ヘテロ型の乳酸発酵におけるエタノール、酢酸、乳酸の生成、その先のアセト乳酸、2AP、ピリジン、VA、ヒスタミンの生成と条件など。
MLFだけなんて単純なもんでない。初期発酵から貯蔵期間という長いスパンで醸造で色々関係してくる乳酸菌。

でもやっぱりスタートは葡萄だし、大事なものもそこ。
果粒内の成分は畑の気候や環境にもよるところもあるが、人為的介入による変化が当然起こります。
どのような作業でどんな葡萄になるのか、色々試していきたいと改めて思う次第です。

食べ物の価格と中身の不釣り合いさについて

我が家の家計費に占める食費はとても高いです。
消費量はそこまでですが、ある意味でこだわりが強く、高くついてしまいます。
自給している食品も相当に高いですが、調味料、米、小麦、ワインに対しては現状の収入に対して大分はみ出た支払いを行っていると思います。

他方、一般的に家計のやりくりで一番削りやすいのも食費についてだと思います。
作っている人の人となりまで知っているから安心できる食べ物、この点に非常に共感できるからこの価格でも納得できる等こだわる人もいるかと思いますが、一般的に一番やり玉に挙げられるのは食費だと思います。日々消費されるし、目に見えて分かりやすいですしね。

こう考えると、食費に対する考えの2極化がより強く進んでいるんだろうなと思うわけです。
世間では、●●が安い、だとか今なら●●セールとかで「価格が安い」という一点突破で目玉になるような宣伝文句の下、食品が販売されていることも多いです。

でも、日々消費して体を構成する元となる食品ってそんなに安売りするべきものなんでしょうか?
今の米、みそ、しょうゆ価格などは本当に安いなと思います。ニュースなどで生活必需品の価格が値上がりするときに平均●●円値上がりするといって、コメンテーターが生活が大変になりますねと話なんかしてるのを聞くと、違和感しか感じません。
そう。食品の値段が現状だと安すぎると個人的には感じるのです。
あなたがかけているスマホ代、交際費、ネット代などなど高いと思うのはいくらでもあるわけです。

あなたが生きていくうえで必要なのは情報やお金などいろいろあると思いますが、生命活動を維持するために摂取する食品は一番大事でしょうと思うわけです。
日々体に取り入れる食べ物は、体を構成する物質。
売っているものなんだから信用に足るもの、大手食品メーカーが作っているんだから信用に足るもの、売り物なんだからまがい物なんかなわけがない。
果たしてそうなんでしょうか?と思うわけです。

少しでも信頼できる食事を摂るためにも、ある程度のお金を米、味噌、醤油、基本的な調味料からでもいいからかけてほしいと思います。

一方、私が造っているワインは一般的には日々消費するものではないと思います。
いわゆる奢侈品です。
じきの赤は約3,800円。これは一般的な感覚として酒としては高い部類だと思います。
美味しいとされるワインは高価格な印象はありますが、現状の自分のワインはフランスの憧れのあるワインと比べてどうなのか?
同じ価格帯で、簡単に比較はできませんが、自分のより美味しいと感じるものも多いというのが実際だと思います。
ただ、3,800円というのは中身と価格を考えた時のすり合わせで上限ギリギリかな?というイメージで付けている値段です。
中身のことを差し置いて経営面から値段を付けるのであればもう少し高くしたいなという実情もありますが、それだけはしたくありません。
だから目指すワインに近づいた時には価格を上げることもあるかもしれません(現状はその予定はありませんが)

こんなことを思ったのも、最近色んな酒屋さんのHPを見る機会があったので面白半分どの程度の値段決めを皆さんしているのか見てみました。
はっきり言うとある程度真面目に造っているであろう日本ワインは高いと思いました。
特に小規模ワイナリーの商品が。
中には抑えているところはありますし、この値段でこの中身なら安いなー、毎日でもいただきたいなー、というところもあります。
ですが、中身と価格の不釣り合いさが如実に出ているところが多いのも事実だと思います。
あのワインでこの値段…。私ならロワール、更にはジュラ、サヴォワの好きな生産者購入するなーとなりそうです。

結局のところ、中身と価格のすり合わせと書きましたが、消費者サイドがどのような感覚でいるのか、ターゲットとしている人に対して「如何に売るか」「マーケティングしていくか」に力点が置かれていて、中身と価格の不釣り合い感が置いてけぼりにされているような印象なのです。
目指しているワインだったのか、できちゃったワインだったのか知りませんが、造ったワインを如何に捌けさせるのか、そこに注力している印象です。
販売先を直接消費者に届けるのか、酒屋さんへ卸すのか、或いは飲食店に売るのか。
それもワイナリーを経営する「商才」としては必要なことだとは思いますが、ものつくりをしている一端の職人でもあるのだから自分のワインの値決めについて冷静に俯瞰してみてみることも必要なんでは?と思いました。
にしても高いですね。これじゃ大きなキッカケがないと小規模ワイナリーのワインを購入してくれる人の裾野は広がらないですよ。

2021vtが始まります

葡萄を植栽して4年目の今年。ようやくまとまった収量が得られそうです。
この半年間を振り返ると当たり前ですが、色々なことがありました。
過去3年間失敗続きだったカスミカメの対策、対応ができるようになったのも一つ前進したことですが、旱魃時に新たに出てきたウリハムシモドキには手を焼きました。
全収量の10%ほどをダメにしてしまいました。
来年は新たにウリハムシからの防除を講じたいと色々と考えを巡らせています。

それと農機具の故障が相次ぎました。
農機具メーカーの明らかな設計ミスが起因になったようなものです。使用者は不具合についてのアンテナを常に張っていないとダメですね…。

そして、いよいよ2021vtの仕込みが始まります。
今シーズンのテーマは「待つ」です。
醗酵を待つ、抽出を待つ、熟成を待つ。
2020vtは全体のバランスとして2019vtよりも、よりツヴァイ「らしさ」に焦点を当てた造りを目指しました。
2019vtは良い意味でも悪い意味でも優しすぎると感じました。
個人的にはもう少しツヴァイのスパイス感や洗練されていないある種の野暮ったさを上手く表現したかったのです。
今振り返ると醸し期間中に少々虐めすぎたような気がしているのが心残りな部分です。
ただ現時点で樽熟中のワインは近いところに落ち着きそうな感じではあります。
瓶熟1年以上はしたいところですが。。。
加えて2020vtは亜硫酸無添加でやろうとも思っています。
今の段階でポリフェノール量や酸の状態から耐えられると踏んでいます。

そして2021vt。
ツヴァイらしさを上手く引き出しつつ、主張させすぎないバランスを保つ。
一歩間違えると野暮ったさを主張するワインになるような気もしますので、抽出には注意を払います(2020vtの反省)
芯はあるが、飲み口は柔らかく、酸がしっかりと伸びていくワイン。
優しく扱うことに加えて、見極めをしっかり行い、その適時での抽出、搾りを行うタイミングまで「待つ」ことをしたいと思います。
もちろんサンスフルで瓶詰まで出来るように綺麗に造っていきます。

酒販免許が下りました

先ほど税務署から連絡があり、1月下旬に申請を出していた一般酒類小売業免許と通信販売酒類小売業免許の許可が下りました。
キッチリ2か月かかると伝えられていたので、大丈夫かな??と思っていましたが予想より2週間以上早くOKになりました!

これで2019vtワインも蝋付けとラベル貼りが終われば出荷を待つばかりです。
楽しみです~!