2024シーズンの仕込みがいよいよ始まります

黒葡萄の色合いも深まり、いよいよ収穫のシーズンが間近と迫ってきました。
昨年の酷暑が嘘のように今シーズンは気温の推移が穏やかだった為、葡萄たちにはとても良い環境のようでした。体感的に9月下旬現在、朝晩は肌寒さを感じるような気候となっている余市です。
葡萄たちの状況は、驚くほど病気が無く、早い時期からの夜温の下がりのお陰もあり、酸を残しつつ、ゆっくりじっくり熟度が上昇するような理想的な環境となっています。そして、今年は花時期の天気が安定していたおかげで実の付き方も良く、全体収量は過去最高になる予定です。

そして何より有難いのは葡萄のポテンシャルがここ最近ではあまり見ないような(21vt除)分析値となっています。

実のところ、今シーズンの初めのころは「もう今までのような北海道の気候は来ないだろうな…」、「今年も暑い夏が長く続いて夜温も下がらず、23vtのような感じになるのだろうな…」と、半ば諦めに近い感情がありました。23vtの酷暑は葡萄への影響がとても大きく、その状況を目の当たりにしていたせいもあり、数年以内に晩腐病の蔓延や渡り鳥の滞留による鳥害の増加、極度の酸抜けとPh上昇が絶対に起こることを覚悟していました…。
ところが一転、今シーズンはお盆過ぎから夜温の低下が起こり、昼間の気候も9月には秋の様相を呈していました。今では立派な(?)秋らしい秋となっています。

ですが、やはりここ最近の本州の気温を見る限り(静岡で9月下旬40度近いって衝撃です…)どうひっくり返っても北海道が今後もずっとこんな気候であるはずがないと思っています。

せっかくやってきた恵まれた気候です。これが余市という産地で酸を残しつつ、適度に熟した葡萄が得られる最後のチャンスかもしれないのです。
このチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
なので、今シーズンは高アルコールになろうとも熟度を上げることを第一に考えて収穫日程を決めました。
状態が良ければ一部白品種は11月収穫でも良いと思っています。
周辺では早生系の収穫が数日前から始まっていますが、自分の圃場ではスティル用葡萄は来月中旬以降です。
「もうこの気候を経験できない」可能性があるし、「今シーズンのような葡萄を使って醸造は出来ない」と、ある種の「緊張感」を持って醸造に取り掛かかります。

先ほども記載しましたが、余市だけではなくて北海道の気候が年々変わってきています。
冬の寒さも2月の極寒期以外はベタ雪が降るような気候が増えました。雪の降り方もスコールのように局所的にガバっと纏まって降ることが多くなりました。
夏は夏で暑さの質が変わりました。太陽光のジリジリ感が強くなり、北海道では感じたことのない痛みような暑さを受けるようになりました。
夏のこのイメージは私が埼玉に住んでいた小中学生の頃のようです。当時は日射病という言葉でしたが、30℃を超えたら日射病になるので外で遊ばず、日影や家にいましょうと言われていたように思います。光化学スモッグ注意報も良く流れていました。
これが今から30年前の話。なので北海道もあと30年もすれば今の関東のような気候になりかねないと思うのです。
もうそうなったら、まともな葡萄は取れず、まともなワインが造れるわけがないと思うのです…。

だからこそ、今シーズンは残り少ないチャンスだと思っています。だからこそ葡萄が熟すのを待ちたい。。

閑話休題。

少し話題がかぶるところもありますが、北海道の葡萄であれば醸造的にうまくできていなくてもある程度美味しいとされるワインが造れていました。
ですが、それは今までの事だと思っています。

この地域の生産者の22vtや23vtのワインを飲むとはPhが高い印象がどれもあります。加えて全房比率が高い醸しを経ていると余計にそれが目立つ感じです。
酸化させる造りだと更に余計に取れます。どれも似たような余韻に収束されていく印象なのです。
農家のお祖母ちゃんが家で作る漬物と同じようにワインを造ると話す方もいらっしゃいますが、自分は全く同調できません。
農家のお祖母ちゃんは菌抑制をする魔法の材料を使っています。
それは味噌も醤油も同じで、長く食料を保存をするための発酵食品製造には欠かせない必須のモノです。
その正体は「塩」です。
塩が無ければ農家のお祖母ちゃんはマトモな長期保存が可能な発酵食品は絶対に造れません。
全国で唯一、塩を使わない「すんき」という漬物が岐阜と長野の一部地域で作られていますが、それは乳酸菌と酢酸菌をうまく利用して作っています。しかし、ある種の職人技的なものが必要で、今では農家でも作っている家は相当に減っています。一部食品メーカーで作っているものでも???という商品があるくらいです。ウチではスンキ用の在来品種の蕪を栽培し、スンキを作っていたこともあります。参考にしようと食品メーカー数社からスンキを取り寄せたことがありましたので、この辺のことは分かっているつもりです。

漬物をはじめとした発酵を伴う保存食品の「塩」をワインに置き換えると、それは「亜硫酸」だと思っています。
別に亜硫酸を称賛し、使うべきだ!なんていう気は更々ありません。少ない方が良いし、0に出来るなら使わないのが良いです。
現にウチのワインでもサンスフルのモノがいくつもあります。

ここにおいて問題だと思うのはマーケティングや耳触りの良い、ある種の「お花畑」的な印象を俗にいう自然派ワインに持たせることへの違和感です。
微生物学や発酵学、食品科学、或いは公衆衛生学等を勉強したことのある人は勿論、食品を扱う職業に就いている方々は微生物への危機意識というものが如何に大事かを理解しています。しかし、ことワインの話になると神秘性というか感情に訴えることがまず初めに来てしまい、微生物への意識が薄らぎます。
微生物の世界がもやしもんのような菌の世界ではあるものの、それを抑制しない方が美味しいワインが造れるなどということはないと思っています。
なので、サニテーションは大事ですし、亜硫酸も使う必要がある時は使わなければならないと思います。

亜硫酸を使わないことを目的としたワインも目に付くようになってきました。
はっきり言って順番が逆ですし、サンスフルという文言がマーケティング的に売れるとでも思っているのかもしれません。
新規参入者でそのようなワインを造っている人を見ると何だかなと思う自分が居ます。
「造りたい、目指したいワインを醸造していたら結果的に亜硫酸を使わなくても良かった」なら良いと思うのです。

先の話に戻りますが、北海道では亜硫酸を用いなくても良いワインが造れるポテンシャルの葡萄が栽培できていました。
しかし、もう違うと思うのです。
今年の気候は特別でも来年以降は分かりません。現に22vt、23vtは今までにないPhの高いワインが目立ち、モノによっては全房醸しを行ってカリウムイオンをより抽出させ、結果的に酒石酸水素カリウムを多く析出させ、更にMLFにおけるMLEやMEの影響で、最終的なPhが非常に高くなり分子状二酸化硫黄の存在量が1%以下となり、最終的にヘテロ型乳酸桿菌が酵母が資化できない5単糖や4単糖を資化したり、総酸低下による酒石酸からの酢酸生成、或いは極僅かに残った糖からの酢酸生成を行っているのだろうなというワインが目についてきました。さらにこの乳酸桿菌の働きが進むとリシン由来のアセチルテトラヒドロピリジン、オルニチン由来のアセチルピロリンの香り(俗にいうネズミ臭や豆臭)が出てきているワインもあります。
豆が出るとしつこいものは瓶熟しても飛ぶことはありません。

だから今まで問題が起こっていなかったやり方でのワイン造りをしても今後は上手くはいかないと思っています。
しっかり化学、生物学、醸造学を踏襲した上で、やりたいならばナチュラルな造りを行う必要があると思うのです。
北海道は今までは産地の優位性から高ポテンシャル葡萄が収穫できる土地でした。そこに造り手たちの甘えがあったのだと個人的には感じます。

畑の生き物の多様性に興味シンシン

2024vtの仕込みがそろそろ始まります。

畑の葡萄たちはすこぶる調子が良く、この後何もなければ過去最大の収量が見込まれます。
葡萄のポテンシャルも余市で理想とするものが望めそうな雰囲気もあり、個人的には2021vtのような葡萄が取れればなという淡い期待があります(2014vtを知りません)
2023vtがあんな気候だったので今後、北海道で今シーズンのような気候は望めないだろうな、と思っていて、可能な限り引っ張れる環境があることに感謝しています。
この夜温低下であれば、酸を残しつつ、ある程度のPh維持をして熟度上昇が期待できそうです。

ところで、ワインを造るにあたって、すべてのシーンで目に見えない微生物の働きがあります。
以前にもこちらに書きましたが、醸造と栽培という区分を設けること自体ナンセンスだと私自身は感じています。
畑仕事にて、どのタイミングで葡萄や土に手を施すかといったことは、造りたいワイン像をかみ砕き、畑仕事にその因数を反映させることだと思っています。
なので、畑仕事は酒造りの一環だという認識です。
畑仕事も醸造もすべてがワイン造りなんです。

微生物の働きと聞くと醸造を思い浮かべる方が多いかと思います。
自分ももちろんそうでしたが、最近はむしろ畑での微生物たちの働きに興味がとてもあります。
硝化細菌や根粒菌などもそうなんですが、それ以上に菌根菌をはじめとした葡萄の根圏に生息する微生物群の働きがあまりにもダイナミック、且つドラスティックなんです。
マイクロバイオームという世界があるのだという考えが自分の中で納得して落とし込まれて、より一層、畑の植生の豊かさと土中微生物の多様性が重要だと思い始めました。小さな花を咲かせる雑草やあらゆる草花、それに寄り付く虫や動物たち…それらを含め、葡萄木以外の植生の豊かさを今と同じ、或いはそれ以上を目指して畑仕事に勤しみたいです。

葡萄の収量、質も気になるところですが、目下のところ一番重要視するのは畑の生き物たちの多様性だと思っています。
当然畑管理は行いますし、良い葡萄はしっかりしたキャノピーマネジメントがあってこそ、と考えています。
そこに加えて今は畑の多様性が最重要なのだと感じています。

とにかく一つのことに集中すると周りが見えなくなるADHD気質なので(笑)、これについてもとことん突き詰めてやっていきます。

当然、不耕起、無施肥、無化学農薬で(放置ではありません)やります。

小規模ワイン農家の持続可能性について

今シーズンの収穫も残すところあとわずか。
醸造は来月いっぱいまで気の抜けないところ。

今年は夏の暑さ、湿気に加えて収穫期の鳥害の多さと、農家にとっては深刻な被害を多く耳にしました。一方で余市は空知や蘭越など他地域と比べたら鳥害は多くは無い印象です(例年よりは多いですが)話に聞いている限り、鳥害の影響で収量がなくなるレベルというのは自分の周りでは居ないように思います。それ以上に影響を受けたのが、気温上昇と湿度の高さからくる病果だと感じています。樹勢コントロールと土壌から如何に窒素分を抜といった(菌根菌や根粒菌を含めた窒素固定細菌の固定以上の窒素量を無くす)施しを意識して行っているが肝だったかと思います。
ウチの白品種は樹がより落ち着き始め、房の大きさが小さくなった影響で昨対で2割減程度ですが、マストの質は上がっています。黒品種は育てているのが中生種ということもあり、引っ張っている影響で病気は出ていますが、目も当てられないほどではありません。結局どこに力点が置かれるかだけな気がします。

それと酸の落ち。
葡萄は今シーズンのような気温上昇と夜温の低下がない状況であれば、除葉を無くそうが何しようがリンゴ酸やクエン酸が呼吸で消費することは自明です。酸の消費は日射が当たることではなく、気温の影響が大きいです。このようなシーズンでは引っ張る場合、酸の落ちを抑えるような栽培方法はないように思います。強樹勢にして熟すタイミングを後ろ倒しにするとか、大量に房をつけて熟させないとかは出来ますが、ワインへの悪影響が大きくてやる価値は全く見出せません。そして酸の落ちは糸状菌の餌食となります。
やはりそこで重要なのは植物体の窒素量だと考えます。病気に侵されたり虫に攻撃されたりするのはそこです。自分は葡萄畑において他からの窒素供給は必要ないと感じます(反収1tとか目指さない限り)。窒素固定細菌、菌根菌の働きだけで十分です。今シーズン、反収500kg以下とかでやっていて病果が出ているのであればやはり窒素量が問題なんだろうと思います。あとは水捌けか。軟化期以前の葡萄がベトや灰カビ、バンプに侵されるのは分かりますが、ヴェレゾン後に病果がエライことになっている畑は土壌のバランスに何某かの問題を抱えているように思います(極端に引っ張ることを除いて)。これも農業の持続可能性に繋がる気がします。

結局、病果が大量に出ると病果除去が非常に手間になります(病果関係なく醸造されているところもありますが)。小規模生産で動ける人間が家族のみという農家の場合には、他の葡萄の収穫が待っているのも関わらず、そんなことに手が回せるか甚だ疑問です。そして私も含め多くの小規模生産者を見るとボランティアの手を借りているのが実情です。集めているのか、向こうから来てくれるのかは関係ありません。それって価格には反映されていませんが、反映したとしたら結構な値段のワインになってしまうんだろうと思います。
ボランティアさんに来ていただくことは大変ありがたいですし、助かる面があるのは事実です。でも、「自分たちの中でしっかり回す農業」というものを考えた際、ボランティアさんの力を最初からアテにする営農はどうなのか?と思うようになっています。突き詰めると「それって自分の造ったワインなのか?」とも考えられます。みんなのワインならいいのかな?いくら病果が出ても助けてくれる人がいるから大丈夫、と少しでも思う気があるのなら、だいぶ温い感じがします。

収穫期については自分は色んな方の力を借りてしまっているので中々難しいですし、変えていかなければとは思っています。うちは今シーズン、収穫期以前のボラさんのお手伝いは極力絞ってお断りするよう努め、自分の力だけでやろうという試みをしました。来年以降どこまで出来るのか、やり方についても色々試行していく必要があるなと感じています。
ボラさんの力を借りなくても持続できる営農とは?色々考えさせられるシーズンでもありました。

嬉しい発見

今シーズン、少しうれしい発見が畑でみられています。

それは半翅目であるセミがボーペリア菌に感染し、圃場内で逝っている状況が散見できることです。
ただの亡骸ではないです。
菌に感染して亡くなっています。

ボーペリア菌という冬虫夏草(セミの幼虫とかから茸生やす菌です)と似た、昆虫に取りつく糸状菌の一種です。

なんでこれが嬉しいのか。

同じ半翅目であるカメムシも当然この菌が感染し、死滅させる力があるということが分っています。
そして、ウチの畑でボーペリア菌がちゃんといるということが判明しました。
それが嬉しい 笑

日本にはごくわずかですが、米国からボーペリア菌を利用した農薬も輸入されていますが、自然にこのように存在している菌なんですね。

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最近の興味

醸造についてはここ最近も記載しましたが、専ら乳酸菌について興味津々。

畑については、天敵生物を用いた防除、微生物的防除に興味津々。
それと糸状菌と細菌とでの防除のやり方…というか考え方のシフト。
酒石酸、リンゴ酸が豊富な時期に糸状菌を恐れすぎることは意味のないことあなぁと思うわけです。

畑の生物多様性は化学農薬に頼らない営農においては非常に重要なんだと改めて思っています。
カスミカメ類に寄生する寄生バチの研究が行われていることに驚きです。
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2000/narc00-1028.html
http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/hogo/research.html
実際には畑で目に見えないレベルで寄生バチがいるのだとは思いますが、それらが生活しやすい環境(シーズン中の花リレーなど)を整える必要がありますね。

それと化学的防除ではなく、それより以前から行われていた微生物的防除というのが新鮮でした。
戦後、化学農薬の進展のため、隅に追いやられていた微生物的防除ですが、ボーペリア菌等の研究が進んでいるようです。
https://arystalifescience.jp/ipm/ipm35-1.php

やっぱり思う

今シーズンは今のところ昨年より雨が多く、積算温度は低いようです。
葡萄はというと順調に生育していってくれています。
毎日朝から晩まで顔を合わせているので家族以上に接している時間が長いです。
個人的に自分の葡萄と接する時間が長いということは非常に重要だと思います。
葡萄の調子、意図的に施している管理で今の段階でどのような葡萄になっているのかの観察等々。
出来上がる葡萄を目標とする小さな点に収束させることはできないけれども、可能な限りそれに近づけたい。
その一心で朝から晩まで畑に立っています。
畑の作業は研修先や本に載っていることとは違うことも多々あります。
自分で分からないことは色々実験し、植物生理、菌叢のこと等考えながらやるべきことを畑仕事に落とし込んでいます。
何となくや感覚、聞いたことを単純に行う仕事は可能な限り排除しています。
何故それを行うのか、自分が納得するまで考えます。
そう考えると農作業は単調な仕事なのですが、葡萄を作ることってとってもクリエイティブな仕事なんだと思います。
自分の造りたいワインがある。そのワインを造るために必要な葡萄は自分の畑で作る必要がある。
だから自分で考え、自分が手を入れた畑が重要なんです。畑が第一なんです。
なんでか?
目標とするワインを造るために必要となる葡萄は自分しか作れないと思うから。
それだけです。

兎に角、葡萄第一に、この時期は羊も野菜畑も自分は放置です。
葡萄収穫が終わるまでほぼ労働力は投下しません。
畑作業は栽培というくくりにされがちですが、これは既にワイン造りなんです。
剪定から瓶詰まですべてが1つなんですよね。

収穫まであと2か月。頑張ります!

知れば知るほど

備忘録としてシコシコ書いているブログという認識でしたが、意外と閲覧しているモノ好きな人が居らっしゃるようです 笑

2022vtの畑仕事が折り返しくらいに来ました。
今ヴィンテージは開花期に若干気温が低かったことと天気がよろしくなかったこともあり、振るった場所も一部ありました。
ただ、全体的には結実は良く、後は台風さえなければ収量は問題なさそうです。

最近は、犬の散歩を終えてから畑仕事までの時間で醸造について学んでいます。
エルゼビアやグーグルスカラーとかで文献を見つけてアブスト見るだけでも面白いです。
最近の翻訳機能はすごいですね 笑
自分は曖昧な感じではなくて深く掘って自分なりの答えを掴みたい質なので、醸造期間以外に色々知ることは良いことだと思っています。
このことを10月からの実践で自分の中ですり合わせ、落とし込んでいければより良いと思っています。
緩さやぼんやり感は取り合えず今はいいかな。

改めて感じるのは俗に謂うナチュラルなワイン醸造においてカギになるのは乳酸菌なんだろうということ。
ヘテロ型の乳酸発酵におけるエタノール、酢酸、乳酸の生成、その先のアセト乳酸、2AP、ピリジン、VA、ヒスタミンの生成と条件など。
MLFだけなんて単純なもんでない。初期発酵から貯蔵期間という長いスパンで醸造で色々関係してくる乳酸菌。

でもやっぱりスタートは葡萄だし、大事なものもそこ。
果粒内の成分は畑の気候や環境にもよるところもあるが、人為的介入による変化が当然起こります。
どのような作業でどんな葡萄になるのか、色々試していきたいと改めて思う次第です。

ツマグロアオカスミカメとの闘い 現段階での結果

2021/6/4現在、じきの畑のツマグロアオカスミカメによる食害は殆どありません。
有機JASに則った管理でここまで持ってこられています。
赤・白品種関係なく、昨年まで非常に被害の大きかったピノブランにもカスミカメ被害は非常に少ないです。
花穂が食われている株はほぼ無いです。
というか現在芽欠き作業をしている最中なのですが、畑でカスミカメをあまり見ることがありません。
過去3年間と比べると、畑の様子が明らかに違い、葡萄の葉っぱや花穂って綺麗だな~と毎日の作業が楽しくなっています。
収量も一気に伸びてほしいところ。

過去3年間で散々いろいろなことを試しましたが、どれも失敗。甚大な被害が発生し、悔しい思いをしてきました。
小さい段階で被害を受けた個体は生長に支障が出てしまい、育生に年単位での遅れが生じます。
今シーズン4年目の畑は樹間が1.2mと短いため、過去カスミカメ被害があった個体でもフルーツワイヤーには乗っていますが、被害が無かったら万度収穫出来ていたのではないかと思うと残念でなりません。

今シーズンはやり方、特に作業を行うタイミングなど過去3年間と変更して行いました。それと葡萄の木だけを見るのではなく、畑全体を観察しました。
カスミカメにとって何が効果があるのかは採取した個体で実験済みだったので使う資材はある程度絞れていました。
今思うと残るはやり方だけだったんだと思います。

今後、有機栽培での防除・被害抑制方法として確立していけるよう来年以降もブラッシュアップしていきます。

この後第2世代が発生してくると思いますが、花穂がやられなかったので穂先が食われてもそこまで気にしていません。少々枝や実の登熟に影響があるくらいでしょうか?
とにかく第1世代から葡萄を守りきったことは非常に大きな成果でした!

ツマグロアオカスミカメとの闘い

北海道の葡萄農家にとって最も厄介な害虫がツマグロアオカスミカメという半翅目の虫です。
生態については年に3世代ほどが圃場内で繰り返し生まれていますが、どのような形で越冬し、圃場の何処からやってくるのか等、分からないことが多い虫です。
第1世代はちょうど今頃。葡萄の芽が吹く時期に何処からともなく現れます。
そして、この第一世代が花穂や葉の成長点(茎頂部)を吸液するため、葡萄の花や葉が出てくる前に傷害を受けてしまうのです。
当然ダメージを受けた葉は光合成を正常に行えません。成長点が傷害を受けると見た目、展葉段階で4葉くらいがシワ枯れたような葉っぱになってしまいます。
また、吸液された花穂はボロボロになってしまい、その年に実を着けるとが出来なくなってしまいます。
第2世代、第3世代になると葡萄の新梢もだいぶ大きくなるため、吸液されてもほぼ影響がないので(花穂が吸われて無くならなければ切り抜けられたということです)、この第1世代の対応に苦慮しています。
慣行農法だと化学農薬(有機リン、ネオニコ、ピレスロイド等々)で全く問題とならない虫なのですが、有機でやるとなると一番の障壁となっています。

カスミカメの対して今のところ自分の中で分かっていることは、
1、白品種の方が赤品種より被害が大きい
2、コルドンの方がギヨより被害が大きい。おそらくですが、萌芽から展葉にかけての伸長がギヨの方が早く進むため成長点を吸液される前に伸びきってしまうのではないかと思います。
3、有機で使用できる殺虫剤として一部の半翅目(コナジラミ等)に効果があるミルベメクチン系の農薬はほぼ効果が出ない
4、気門封鎖を目的に展葉期にマシン油乳剤を使用すると薬害が酷く発生(オレート液剤は有機では使用不可なので不明)
5、慣行で防除していたとしても毎年防除しないと被害が発生(圃場外からやってくる?)
6、慣行の場合に化学農薬で第1世代をたたいても第2世代、第3世代は発生している。影響が出ないのは新梢が大きくなっているため。また他の害虫防除の薬が意図しない状態で効いている
7、茶でもツマグロアオカスミカメの被害はあるが、有機認証を取得している農家が多い
8、山桜が咲き終わる時期に硫黄合剤を散布すると忌避効果があるという話はある
9、主枝の皮に産卵して越冬するという話もあるが、茶の文献を読む限り一番怪しい産卵場所は芽欠きを行った結果母枝の陥没個所、そして主枝の皮下。また、土中で卵として越冬するタイプもいる模様。茶の場合は剪定した切り口に産卵するタイプもいるようだが、北海道では剪定シーズンにはカメが寒すぎていないと考える
10、ヨモギやギシギシ、イネ科植物が好きでそれらがないと葡萄樹へ上がり食害にを起こす。慣行農法で行う場合は、萌芽から割れて展葉を始めるタイミングに草刈りを行い、カメが葡萄樹へやってきたところを化学農薬で叩くというスタイルを取る場合が多い。意識的にカスミカメ防除を目的にして草刈りはしていないと思うが、春先からの雑草の伸長がちょうどカメ時期の前の草刈りに当たる。これが一番効果が上がる方法だと思われる。逆に言うと雑草をあえて刈らなければ、カスミカメはわざわざ葡萄の木に登ってまで茎頂部分を吸汁する必要はなく、葡萄の木より背丈の低い雑草に登る可能性は十分にある。結果母枝、主枝に産み付けられたカスミカメの場合だと避けることは難しいかもしれないが。じきの畑での草刈は通路で年1回、株下で年2回だけ。

就農してからカスミカメを毎年捕獲し、ラボスケールで有機で承認されている農薬や効果がありそうな物質を使って実験をしているのですが、中々虫籠と圃場では条件が異なるようです。
一昨年から始めたミルベメクチンの実験は当たれば弱ったり、死ぬ個体もあるのですが、圃場での散布となると昨年はほぼ効果はありませんでした(結構被害が出ました)
背負い動噴でキッチリ散布したので、かけ漏れはないと思います。ミルベメクチンは救世主になるかもと期待していましたが、今のことろ残念な感じです。

あとはボーペリアバシアーナという冬虫夏草(セミの幼虫から生える茸の菌糸)を作る菌がもしかしたらという期待もありますが、こちらも中々条件が難しく使用出来ない状況です。
この菌は多湿が大好きなので梅雨時期、つまりカスミカメが活発になる時期にはある意味で適合しているように思います。
後は、同じカスミカメでも益虫としてトマト栽培で使用されているタバコカスミカメの実験が色んな研究機関で行われており、タバコカスミカメを飼っているハウス内で使用OK、NG農薬の一覧(研究機関によって結果が少し違うのが面白いです)が出ているので、そういう情報はしっかり確認して実験を進めていっています。
今年も新しい方法を思案していて、現在進行形で畑で試しています。
過去、薬害発生や防除失敗で痛い目しか見てきていませんが……笑
自分の身を切って試したことは絶対に自分の知識の蓄えになると思うので今後も続けます。

あとは、7の認証取得をしている茶農家の有機的管理下の防除暦は参考になると思っています。

それにしても、やはりカスミカメの影響を0にすることは無理だと思うので、樹勢コントロール(強ければ少し吸われたくらいでは問題ないため)などでどうにか凌がなくてはならないなと考えています。

ボルドー液の銅量について

2023.4に加筆修正しました。

色々な農薬会社から色々なボルドー液が出ています。
有機志向の醸造用葡萄栽培家の多くがボルドー液を使用していると思います。
更に言うと、フランスに倣って畑に散布する銅の量についても気にしている方も多いです。

口頭では、何となくや見た目的にどうのこうの言っている節が多く見受けられるため、今回各社の出しているボルドー液を推奨している最低希釈倍率で1000L散布した時の銅量を調べてみました。
驚いたところと、まぁそうかなと思ったところがあるので参考にしていただければ。

※1000L薬液を造るとして※
ICボルドー66D  銅含有量3.7% 最低希釈100倍  薬剤10000g⇒銅量370g
ICボルドー48Q  銅含有量2.5% 最低希釈50倍   薬剤20000g⇒銅量500g
Zボルドー    銅含有量32%  最低希釈800倍  薬剤1250g⇒銅量400g
園芸ボルドー(※)銅含有量35%  最低希釈800倍  薬剤1250g⇒銅量437.5g
サンボルドー  銅含有量44%  最低希釈600倍  薬剤1666g⇒銅量733.04g
ムッシュボルドー銅含有量40%  最低希釈500倍  薬剤2000g⇒銅量800g
コサイド3000  銅含有量30%  最低希釈2000倍  薬剤500g⇒銅量150g
クプロシールド 銅含有量14.8% 最低希釈1000倍  薬剤1000g⇒銅量148g
(※園芸ボルドー≒イデクリーンなので園芸のみ記載)

これを見ていただくとわかりますが、クプロシールドとコサイドが銅量としてはとても少ないです。
コサイドが他薬剤と違うのは、銅としてではなく水酸化第二銅としてなので2000倍希釈という倍率でも効果があるんでしょう。
クプロシールドはフロアブル製剤のため展着能が認められるためここまで銅量が少なくて済むのでしょう。

一番驚いたことはICボルドーです。
このボルドー液、石灰の影響で白い痕が残ることから見た目的に銅の量スゲーんじゃねえの???って思われている気がします。
でも実はそんなことはないのが分かります。
更に銅量を気にする農家は48Qを好んでいるイメージでしたが、希釈倍率を製造メーカーの推奨値に合わせると、66Dの方が少なく済みます。
ちなみにICボルドーの66D、48Q、412(412は葡萄では使えません)の3種類の違いはご存知でしょうか?
これは石灰と銅の配合比率を表しています。
66D→銅:石灰=6:6
48Q→銅:石灰=4:8
412→銅:石灰=4:12
これだけを見ると葡萄に使える48Qと66Dについては48Qの方が少ないようにも見えるかもしれません。
が、メーカー推奨の最低希釈倍率で合わせるを先のような結果になります。
時と場合によって使い分けるのが良いと思いますが、自分は66D派ですね。
因みに銅の量が多いほど薬効は出やすくなりますし、石灰量が多い方が残効が長くなります。

それとボルドー液+クレフノンとICボルドーとは何が違うのかというと展着能が明らかに異なります。
ICについては調合時に既に銅と石灰が合わされ、その中でカルシウムイオンと銅イオン間において化学的に強く結びついているので白い石灰が葉に付着している限り、銅が葉から落ちることは少ないため薬効が長く続きます。
ボルドー液+クレフノンで散薬するくらいならICを勧めます。
園芸など硫黄系のものも撒きたいという別の理由や銅量をコサイドにするほど気にしないのであればICを使用することを勧めます。
因みにツル割れ細菌病については効果はZボルドーだけ記載がありますが、ボルドー液全般に薬効が認められているのでZボルドーをあえて使う理由はないと考えます。

なので極端に銅量の多いサン、ムッシュは省いて、薬害の出やすい園芸(過去幼木にて薬害発生。クレフノン使う方が無難)も避けるとなるとIC66D、クプロシールド、コサイドの使用に絞られるかなと思います。
雨量計を作製しているので、残効ギリギリを攻めつつボルドー散布を今後も続けるつもりです。

あ、あと魚毒性を心配する方もいますので(銅は鉱毒事件でも多く出てくるからかな??)下記調べました。
どれもこれも魚毒性Bと結構な毒性です。IC412は魚毒性Aですが葡萄は適用外ですね…。
ICボルドー66D⇒魚毒性B
ICボルドー48Q⇒魚毒性B
Zボルドー⇒魚毒性B
園芸ボルドー⇒魚毒性B
サンボルドー⇒見つけられず
ムッシュボルドー⇒魚毒性B
コサイド3000⇒魚毒性B
クプロシールド⇒魚毒性Ⅱ(≒魚毒性B)

因みに滋賀県は琵琶湖を抱えているので、ずいぶん以前からボルドーは使用禁止のような記載を他HPで見たことがあります。

海外ではベト対策可能なBTの開発もされつつあるようです。
ボルドーには頼るしかない部分はありますが、新たなものの開発も期待するところです。