小規模ワイン農家の持続可能性について

今シーズンの収穫も残すところあとわずか。
醸造は来月いっぱいまで気の抜けないところ。

今年は夏の暑さ、湿気に加えて収穫期の鳥害の多さと、農家にとっては深刻な被害を多く耳にしました。一方で余市は空知や蘭越など他地域と比べたら鳥害は多くは無い印象です(例年よりは多いですが)話に聞いている限り、鳥害の影響で収量がなくなるレベルというのは自分の周りでは居ないように思います。それ以上に影響を受けたのが、気温上昇と湿度の高さからくる病果だと感じています。樹勢コントロールと土壌から如何に窒素分を抜といった(菌根菌や根粒菌を含めた窒素固定細菌の固定以上の窒素量を無くす)施しを意識して行っているが肝だったかと思います。
ウチの白品種は樹がより落ち着き始め、房の大きさが小さくなった影響で昨対で2割減程度ですが、マストの質は上がっています。黒品種は育てているのが中生種ということもあり、引っ張っている影響で病気は出ていますが、目も当てられないほどではありません。結局どこに力点が置かれるかだけな気がします。

それと酸の落ち。
葡萄は今シーズンのような気温上昇と夜温の低下がない状況であれば、除葉を無くそうが何しようがリンゴ酸やクエン酸が呼吸で消費することは自明です。酸の消費は日射が当たることではなく、気温の影響が大きいです。このようなシーズンでは引っ張る場合、酸の落ちを抑えるような栽培方法はないように思います。強樹勢にして熟すタイミングを後ろ倒しにするとか、大量に房をつけて熟させないとかは出来ますが、ワインへの悪影響が大きくてやる価値は全く見出せません。そして酸の落ちは糸状菌の餌食となります。
やはりそこで重要なのは植物体の窒素量だと考えます。病気に侵されたり虫に攻撃されたりするのはそこです。自分は葡萄畑において他からの窒素供給は必要ないと感じます(反収1tとか目指さない限り)。窒素固定細菌、菌根菌の働きだけで十分です。今シーズン、反収500kg以下とかでやっていて病果が出ているのであればやはり窒素量が問題なんだろうと思います。あとは水捌けか。軟化期以前の葡萄がベトや灰カビ、バンプに侵されるのは分かりますが、ヴェレゾン後に病果がエライことになっている畑は土壌のバランスに何某かの問題を抱えているように思います(極端に引っ張ることを除いて)。これも農業の持続可能性に繋がる気がします。

結局、病果が大量に出ると病果除去が非常に手間になります(病果関係なく醸造されているところもありますが)。小規模生産で動ける人間が家族のみという農家の場合には、他の葡萄の収穫が待っているのも関わらず、そんなことに手が回せるか甚だ疑問です。そして私も含め多くの小規模生産者を見るとボランティアの手を借りているのが実情です。集めているのか、向こうから来てくれるのかは関係ありません。それって価格には反映されていませんが、反映したとしたら結構な値段のワインになってしまうんだろうと思います。
ボランティアさんに来ていただくことは大変ありがたいですし、助かる面があるのは事実です。でも、「自分たちの中でしっかり回す農業」というものを考えた際、ボランティアさんの力を最初からアテにする営農はどうなのか?と思うようになっています。突き詰めると「それって自分の造ったワインなのか?」とも考えられます。みんなのワインならいいのかな?いくら病果が出ても助けてくれる人がいるから大丈夫、と少しでも思う気があるのなら、だいぶ温い感じがします。

収穫期については自分は色んな方の力を借りてしまっているので中々難しいですし、変えていかなければとは思っています。うちは今シーズン、収穫期以前のボラさんのお手伝いは極力絞ってお断りするよう努め、自分の力だけでやろうという試みをしました。来年以降どこまで出来るのか、やり方についても色々試行していく必要があるなと感じています。
ボラさんの力を借りなくても持続できる営農とは?色々考えさせられるシーズンでもありました。

僕には人を惹きつけるようなワードセンスがない

ご無沙汰しています。
ここ最近ブログの更新を全くしていませんでした。
意外と生産者さん(そこのあなたです…笑)が閲覧しているようで、思っていることを何でもぶっちゃけるのは如何なものかと最近思うようにもなりました 笑

ところで、今シーズンはとても作業量が増えました。
原因はおそらく雨と高温による新梢の旺盛な発育に起因します。
枝整理をやってもやっても追いつかない。
枝整理を怠ると葉ベトが多発。本葉に出なければ大丈夫と思いつつも、私なりの考えで葉数はもともと少なく調整しているので微妙なところ。
そのため今シーズンはベトとの共存という感じでやっていってます。来年の枝の登熟は問題ない範囲くらいの被害です。
まぁ実ベトがあまり出なかったのは例年と同じでしたが、葉のベト罹病率はだいぶ高かったです。

高温多湿以外にベトが多いなぁと感じることになった理由としてクロヒメゾウムシの多発があげられますかね。
今シーズンは俗にいうチョッキリ虫に開花位から結果枝を切られまくり、意図しない超早期摘芯が行われた形になりました。
直後に側芽が芽吹いてズバーーッと伸びてくるんですが、やっぱり本来ならば来年芽吹く芽なのでデンプンをはじめとしたエネルギーの蓄積も少なく、出てくる葉は本葉と比べると葉緑素が少なくて弱弱しいものです。当然ベトの餌食です。
超早期摘芯された結果枝の側枝がベト病に罹病するケースが多いのです。超早期摘芯を行うと花が振るわず、立派な房が出来ることもよく分かったのですが、葉が確保できないので切り落とすことも儘あります。

こんな感じの今シーズンでしたが、収量としてはピノブランの収量が上がりそうで、全体としては過去最大の収穫となる感じです(この後何もなければ…)
今年の仕込は色々とやってみたいこともありますが、蔵状況と相談しつつ作業に取り掛かろうと思います。

収穫まで1か月を切りました。
9月は見守る時間が増えそうですが、畑作業に勤しみたいと思います。

将来の葡萄産地をかんがえてみた

北海道の特に余市・仁木エリア、そしてモンティーユが入植したという事で函館、また岩見沢は、葡萄産地としてもしかしたら世界的に注目を集めつつあるのかもしれません。
そう感じたのは今年度の余市町の協力隊の隊員に香港人と台湾人が入り、今後も余市町でワインに携わりたいという意向があるという事を聞いたからでした(人伝ですが)

冬の間、今後この葡萄産地がどのような変遷を辿るのか色々考えを巡らせていました。
何となくですが、最近だとこのエリアでは個人の新規入植希望者が減り、逆に法人が増えてきた印象があります。
もしかしたら役場で帰らされている個人がいるのかもしれませんが。
異業法人からの新規農業参入については全く否定するつもりはないですが、問題はその先にあると考えています。

この地域は首長や発言力のあるワイン関係者含め、法人格の受け入れについては前向きな印象があります。

異業法人の新規参入となると3,4年という短いスパンでの損益について考えることが多いのかな?と考えています。
現に一昨年仁木町にあった、ある法人管轄のヴィンヤードは札幌の法人へ畑を売りました。
岩見沢方面でもワイナリーの売買の話も聞きますし、余市・仁木では個人から生産法人への畑販売もよく聞きます。
今であればワイン葡萄畑ならば農地購入時より高価格で転売が可能な場合も十分にあると思います(農業委員会が絡まない形を取れば)
異業種から来たのであれば投機的な志向を持ちつつ営農を行うことは当然ですし、ほぼ居ないですが個人でやっていてもそうなのかな?と感じる方も中にはいます。

そこで将来起こるのではないか?と感じていることが、海外資本への農地販売です。
これについては農地法第3条が発動し、農業委員会の監視があるため農地売買については制限がかかるのでは?とお思いかもしれません。
ただ、これには抜け道があります。
例えば法人Aが個人の農業者から農地を購入し、農業生産法人Bを設立したあと3,4年経営し、販売したい意向が出てきたときに購入意志のある法人Cが農業生産法人Bごと買収するケースです。
M&Aという言い方が合っているのか分かりませんが、企業買収を行う場合は代表者の名前が変わるだけであって、農業委員会から見た時の農業生産法人Bの存在は変わるものではありません。
そのため、この際の企業間売買においては農業委員会が出てくることはありません。

ここからが私が不安視していることです。

ご存じの通り、北海道の土地は現在水資源、観光資源含め海外資本に購入されていっています。
隣村のkiroroスキーリゾートやTOMO PLAYLAND、ニセコ町のスキーリゾートなどはその典型だと思います。
不安なところというのは、昨今の日本ワインブームを背景にワイン葡萄産地としての認知度が上がりつつある、余市や仁木、函館のヴィンヤード、ワイナリーに対し、食指が動いている海外資本があるのではないかという事です。
現に今年度から協力隊としてやってきた香港や台湾の方は北海道のワインに興味を持っていることから、海外の人たちが興味を持ち始めていることは事実だと思います。
そこに対して3,4年で利益が出ず、当初から投機的な意味合いも含めて農地を運営していた日本の農業法人に海外資本が購入意志を持っていることが分かれば農地を売らないわけがないのかな?と感じています。

これについては北海道だけの問題なのかな?とは思っている部分はあります。
理由としては、北海道については農地を「売ること」についてのハードルが低いことが挙げられます。

また、ニセコが海外資本だらけのスキーリゾートとなった背景には2000年代前半にNACを創業したロス・フィンドレー氏の存在があります。
彼がニセコの自然や雪質の高さに驚き、海外へその魅力を発信したことが現在のニセコ山田地区を形成させています。
そうなるとニセコの時のように現地に繋がりを持つ海外の方がワイン葡萄関係の仕事に就くという事が資本力のある法人の参入を誘導することもあるのかな?と考えてしまう自分がいます。

北海道のワイン産地にはそのポテンシャルがあるようにも思いますし、海外からの入植を目指す人が来た現状から考えるに海外資本によるヴィンヤードやワイナリー経営も近い将来始まるかもしれません。
それが良いことなのか悪いことなのかは分かりません。
しかし自分は静かに静かに、例えば紙に水が滲んでいくように徐々にじんわりと北海道のワインのことが世間に広まれば良いなと感じています。
前のめり、食い気味な感じで北海道のワインを世界へ向けて発信しようとする意志には危うさを感じています。

年が明けました

2023年が始まりましたね。
今年は剪定が昨年中に終わり、ゆっくりとした年始を送っています。
醸造は今年で7年目に突入しますが、まだまだ分からないこともあり、目指すべきワインのスタイルはあるも如何に近づけるか、畑作業から見つめなおし自分の中で思考の反芻を行っていく次第です、鹿を追いつつ…。
先シーズン学んだことは、醸造とは北風と太陽なんだということです。
収穫した葡萄に無理強いしても納得出来るワインを造ることは出来無いと感じました。
自分の理想はあるのかもしれませんが、エゴでそれを頑なに目指すのは違うのではいかと。
この土地で、自分の目指すべきワインを造りだすために必要な葡萄を畑作業で…というのは第一にありますが、やはりその年の天候に逆らうことは出来ません。
葡萄の熟度(糖度ではなく、熟度です)は異なりますし、酸やPH、そしてアミノ酸の含量、ひっくるめると葡萄の果粒を組成するすべての物質のバランスが年により異なるのです。
自分の目指す、造ってみたいワインは何なのか。それを造るために醸造上、どこでどのような手を加えるべきなのか、何となく掴めているような気はします。
ですが、葡萄のポテンシャルは先にも述べましたが、年のより大いに異なります。

極端な例ですが、雨が多く、日照時間も平年より少ない年の葡萄は病気が多くなることが考えられます。
そうなると植物は自身の繁栄を考え、種を守るため、平年よりファイトアレキシンなどフィトクロームに富んだ葡萄を実らせるかもしれません。
また、雨が多いため樹中に還流する水分は多くなり、平年より果粒がNを吸収しているかもしれませんし、酷いと水っぽい果粒になっている可能性もあります。
ファイトアレキシンやアンティシピンは、ある種のフェノールに分類されますが、人にとってはエグミや未熟さにも直結する可能性があります。
例えば、このような黒葡萄で赤ワインを造ろうとしたとき、自分の目指すスタイルが旨味、甘みのあるタニックさもありつつ、骨格としての酸もメリハリがつくレベルで残したいとなると醸造上、抽出が非常に困難になると思います。
つまり、元々の葡萄のポテンシャル以上のワインは出来ないということです。
造り手は、葡萄の持っているポテンシャルの中で醸造を行わなければならないため、無理なことを行えば必ず何かしらの弊害が香り、味に表出してきます。
造りたい人間のエゴから生まれるワインは惹きつけるものが薄く感じられるのはそういうこともあると考えます。
大量生産、画一的な造り、添加物の使用、ろ過、培養酵母等々。
更に付け加えるならば、年により造りを変化させない画一的な醸造については規模の大小は関係ないとも思います。

言い換えると、毎年同じ造りを行うことは葡萄のポテンシャルを活かせていない状況だと私は考えます。
つまり、自分の造りたいワインの着地点にある程度の幅を持ちつつ、譲れない根っこ部分をぶらさず、その上に作り上げる構成要素を変えられれば良いのではと考えます。
余市の葡萄は11月近くまで吊るせば糖度はある程度行くことが分かっています。
しかし、先にも述べたようにそれ以外の要素は年による違いが大いにあるのです。

北風と太陽。
無理強いしても葡萄は笑顔になってはくれませんし、逆に引き出せるものがあるにもかかわらず同じ造りを行うことは勿体ないことです。

やっぱり思うこと

2022vt仕込みも大詰めとなり、醸造シーズンの岩見沢生活も両手で数えるほどになりました。

自分なりに病果が広がらない範囲で引っ張れるだけ引っ張りました。
収穫の大多数は10月の下旬に固まる感じになり、食味・分析値においても満足しています。
収量も順調に伸びました。
窒素の循環を考えた時にちょうど良いレベルで畑が維持できる収量くらいに落ち着いたことはとても良かったです(収量コントロールをした上で)
今のことろ発酵は順調で、白のいくつかは発酵が終了しつつあります。
赤はコールドソーク中です。
下部のマストではサッカロミセス属が弱く、ですがしっかりと発酵を続け、ベリー内では酵素によるアルコール置換が行われています。

所で、岩見沢シェアハウスのメンツと先日飲んだ時改めて思ったことがあります。
それは農業に取り組む姿勢、意識について。
自分は有機だとか自然農だとか慣行農法だとかぶっちゃけ葡萄の質においてはそこまで変わらないと思っています。
なので、有機「だから」、自然農「だから」という理由で異様に高い価値を付けるのは違和感があるのです(付加価値はあると思います)
野菜にしろ、ジュースにしろ、もちろんワインも。
そして、最近有機、オーガニックだとか殊更強調される風潮がありますが、本質はそんなことではないということです。
「その人間が何を目的に農業をしているのか」
その点だけです。

有機JAS認証でも使える資材はご存じの通りいくつもあります。
その中には認められている「農薬」もあります。
他には分解されないとのことで、シリコン製の刈払いブレードやナイロンコード、CCA木杭(CCAは相当に疑問符が付きますが)なんかもそうです。

でも、有機を謳う条件さえ満たせば何を行ってもいいのでしょうか?(それ以前にそれすら満たしてもいない人も大勢いますね)

有毒性が多方面から指摘されているCCAは有機でも認められているから普通に使う(今後有機認証はされないはずです)、ナイロンコードは目に見えないくらい細かく刻まれて畑に飛散し、回収はできなくなるけれども有機での使用が禁止されていないからいくらでも使う(これ喰う動物がいないだけでマイクロプラスティック問題と同じですから)
CCA処理の資材に関しては本当に危険だと確信しています。
野積みにしている状態で経年させると土壌へのヒ素、クロムの流出が顕著で植物や地下水への影響が高確率で発生することが証明されています(銅はそこまで高くないとの報告)もちろん野焼きなど論外です。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010781048.pdf
昭和40、50年代に発表されている古い文献にはCCAは環境、人体に対して問題ないという報告が見られますが、近年の報告を見る限りその根拠には相当に疑問があります。
本当にCCAの使用だけは控えてもらいたいです。
あと有機JAS認証では認められていませんが光分解性テープナーについても同じです。
あれは分解ではなく、劣化→崩壊という流れです。
光による劣化でプラスチックが硬化し、その後崩壊していくというものだと思います。
畑には目に見えないだけでいつまでも細かいプラスチックが残留しますよ。
M〇Xに問い合わせましたが、成分など詳しいことは企業秘密のようでお教えくださいませんでした。
乳酸菌が作っている生分解性マルチとは別物です(これも有機JASでは使用できませんが)

結局、これらって本人が何を目的にしているのかというと「有機」という言葉を使いたい、その一点だけだと思うのです。
これらを使うと確かに作業は大幅に楽になります。
木杭の打ち換えは必要ありませんし、葡萄の樹を傷つけるリスクも減る。
でもそれって、未来に残す畑環境や地球環境、経済面以外の永続的な営農に繋がることなんでしょうか?

私には疑問です。

私は有機でやっているのであれば、有機JASは常々取るべきだと考えています。
書類が面倒、余計な出費なんてのは言い訳でしかないと思います。
取るべきだと考える理由は、「有機」「オーガニック」を言いたいからではありません。
過去にもこのブログで記載しましたが、一つは消費者への担保としてです。

顔の見える関係で地域内で消費される米や野菜を自然農や有機で栽培しているのであれば有機JASなんか取る必要など全くないと考えています。
ですが、加工品、特にワインなどは、「いつ・誰が・どのvtを・どこで」消費するか分かりません。
有機のみにこだわって飲むワインを選択している人はそう多くはないと思いますが、そのような人たちに何も言わずこのような第三者機関の認証は担保となると思うのです。逆に、例えばですが自然農や有機で野菜類を育て、お客さんの大多数が顔の見える関係を築けているような素晴らしい環境下であるのならば、有機JAS認証を取る必要は全くないと考えています。なぜなら、お互いがその人となりを理解しあい、互いに信頼関係が築けているからです。
私が調査対象にしていたCSAの営農形態は正にそのような営農形態ですね。

ちなみにここ最近有機加工酒類(醸造所の有機認証)についても管轄が国税から農水に変わったことで、ある意味お酒においても有機認証を取得しやすくなりました。
ですが、自分はそこに対しては全く興味がありません。
この大地で農業を行う上での考え、指針、哲学においてやっていることがJAS有機認証の延長線上にあるからだけで、醸造所での認証には意味がないと思うからです。
なのでワインのエチケットに有機JAS認証マーク貼りたいとは全く思いません。

加えて似非有機農業の跋扈も気になります。
そもそも有機JAS法が制定された背景は、90年代後半に市場にあふれた数多くの似非有機農産物に端を発します。
少しでも有機肥料を与えたから「有機」農産物を謳うなんてことはザラにありました。
自分も今から15年くらい前に有機農家の経済分析を行っていましたが、自称有機農家の行っていることの「いい加減さ」も多く見てきました。
大概彼らは有機JASを見下していますが、有機JASを取得できるのは半数も居ない印象でした。
でも、今跋扈しているそれは本質的には90年代後半に起こったことと大差がないと感じています。
それは文句としての「有機」が欲しい人たちという共通項が見えるからなんだと思います。

自分は環境に負荷をかけない永続的な生活を送りたいという想いで農業に携わっています。
その上で先ほどの理由が加わり有機JAS認証を取っています。
なので、有機JASで認められていても使っていない資材は数多くあります。
聞かれれば答えますが、積極的にそれを言う気もありません。

自分に正直に正々堂々と営農、醸造を行い続けたいを改めて思った飲み会でした。

嬉しい発見

今シーズン、少しうれしい発見が畑でみられています。

それは半翅目であるセミがボーペリア菌に感染し、圃場内で逝っている状況が散見できることです。
ただの亡骸ではないです。
菌に感染して亡くなっています。

ボーペリア菌という冬虫夏草(セミの幼虫とかから茸生やす菌です)と似た、昆虫に取りつく糸状菌の一種です。

なんでこれが嬉しいのか。

同じ半翅目であるカメムシも当然この菌が感染し、死滅させる力があるということが分っています。
そして、ウチの畑でボーペリア菌がちゃんといるということが判明しました。
それが嬉しい 笑

日本にはごくわずかですが、米国からボーペリア菌を利用した農薬も輸入されていますが、自然にこのように存在している菌なんですね。

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最近の興味

醸造についてはここ最近も記載しましたが、専ら乳酸菌について興味津々。

畑については、天敵生物を用いた防除、微生物的防除に興味津々。
それと糸状菌と細菌とでの防除のやり方…というか考え方のシフト。
酒石酸、リンゴ酸が豊富な時期に糸状菌を恐れすぎることは意味のないことあなぁと思うわけです。

畑の生物多様性は化学農薬に頼らない営農においては非常に重要なんだと改めて思っています。
カスミカメ類に寄生する寄生バチの研究が行われていることに驚きです。
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2000/narc00-1028.html
http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/hogo/research.html
実際には畑で目に見えないレベルで寄生バチがいるのだとは思いますが、それらが生活しやすい環境(シーズン中の花リレーなど)を整える必要がありますね。

それと化学的防除ではなく、それより以前から行われていた微生物的防除というのが新鮮でした。
戦後、化学農薬の進展のため、隅に追いやられていた微生物的防除ですが、ボーペリア菌等の研究が進んでいるようです。
https://arystalifescience.jp/ipm/ipm35-1.php

やっぱり思う

今シーズンは今のところ昨年より雨が多く、積算温度は低いようです。
葡萄はというと順調に生育していってくれています。
毎日朝から晩まで顔を合わせているので家族以上に接している時間が長いです。
個人的に自分の葡萄と接する時間が長いということは非常に重要だと思います。
葡萄の調子、意図的に施している管理で今の段階でどのような葡萄になっているのかの観察等々。
出来上がる葡萄を目標とする小さな点に収束させることはできないけれども、可能な限りそれに近づけたい。
その一心で朝から晩まで畑に立っています。
畑の作業は研修先や本に載っていることとは違うことも多々あります。
自分で分からないことは色々実験し、植物生理、菌叢のこと等考えながらやるべきことを畑仕事に落とし込んでいます。
何となくや感覚、聞いたことを単純に行う仕事は可能な限り排除しています。
何故それを行うのか、自分が納得するまで考えます。
そう考えると農作業は単調な仕事なのですが、葡萄を作ることってとってもクリエイティブな仕事なんだと思います。
自分の造りたいワインがある。そのワインを造るために必要な葡萄は自分の畑で作る必要がある。
だから自分で考え、自分が手を入れた畑が重要なんです。畑が第一なんです。
なんでか?
目標とするワインを造るために必要となる葡萄は自分しか作れないと思うから。
それだけです。

兎に角、葡萄第一に、この時期は羊も野菜畑も自分は放置です。
葡萄収穫が終わるまでほぼ労働力は投下しません。
畑作業は栽培というくくりにされがちですが、これは既にワイン造りなんです。
剪定から瓶詰まですべてが1つなんですよね。

収穫まであと2か月。頑張ります!

知れば知るほど

備忘録としてシコシコ書いているブログという認識でしたが、意外と閲覧しているモノ好きな人が居らっしゃるようです 笑

2022vtの畑仕事が折り返しくらいに来ました。
今ヴィンテージは開花期に若干気温が低かったことと天気がよろしくなかったこともあり、振るった場所も一部ありました。
ただ、全体的には結実は良く、後は台風さえなければ収量は問題なさそうです。

最近は、犬の散歩を終えてから畑仕事までの時間で醸造について学んでいます。
エルゼビアやグーグルスカラーとかで文献を見つけてアブスト見るだけでも面白いです。
最近の翻訳機能はすごいですね 笑
自分は曖昧な感じではなくて深く掘って自分なりの答えを掴みたい質なので、醸造期間以外に色々知ることは良いことだと思っています。
このことを10月からの実践で自分の中ですり合わせ、落とし込んでいければより良いと思っています。
緩さやぼんやり感は取り合えず今はいいかな。

改めて感じるのは俗に謂うナチュラルなワイン醸造においてカギになるのは乳酸菌なんだろうということ。
ヘテロ型の乳酸発酵におけるエタノール、酢酸、乳酸の生成、その先のアセト乳酸、2AP、ピリジン、VA、ヒスタミンの生成と条件など。
MLFだけなんて単純なもんでない。初期発酵から貯蔵期間という長いスパンで醸造で色々関係してくる乳酸菌。

でもやっぱりスタートは葡萄だし、大事なものもそこ。
果粒内の成分は畑の気候や環境にもよるところもあるが、人為的介入による変化が当然起こります。
どのような作業でどんな葡萄になるのか、色々試していきたいと改めて思う次第です。

ワイン造りとは何か

最近、栽培とか醸造という単語に対しての違和感というかワイン造りに対して一面的というか線でなく、点でみているような印相を受けてしまう自分がいる。
栽培も醸造も流れの中では線なのだが、ワインづくり全体でみると大きい点のような気がするのだ。
というのも、栽培も醸造も自分の望むワインを造る工程の1つであり、ワイン造りにおいては同列であると考えるようになったためだ。
ワイン造りにおいては栽培は醸造の一部であって、醸造は栽培の一部なんだと考えている。

自分の望むワインを造るための葡萄とは何か。

それは自分の畑で自分の考えた方法で得た、望むべきワインが造れるポテンシャルを秘めた葡萄なんだと思う。
自分の求めるワインは自分の想い、考えを反映した栽培から出来た葡萄から造られるというのが自然な流れだと考えている。

仕事は準備が8割というが、ワイン造りにおいては葡萄の栽培が8割以上を占めると思う。
散薬のタイミング、芽欠きの幅、草刈のタイミング、除葉のタイミング、草刈を行う草丈、根切り、施肥、、、、ありとあらゆる農作業がどんな葡萄、ひいてはどんなワインを造りたいかによって決定されていくのだ。

単純に「良い葡萄」をつくろうなんて考えは今シーズンからは無くなった。
自分の求めるワインを造れる葡萄を如何にすれば栽培できるのか。
今はただそれを畑で実践しているのみである。

定植後4年間は如何に収量を伸ばすかに力点を置いていたが、今は収量は完全に二の次になっている。

如何に、自分の思い描く良い葡萄を作出するか。まずは兎に角、畑での葡萄栽培なのだと思う。