2024シーズンの仕込みがいよいよ始まります

黒葡萄の色合いも深まり、いよいよ収穫のシーズンが間近と迫ってきました。
昨年の酷暑が嘘のように今シーズンは気温の推移が穏やかだった為、葡萄たちにはとても良い環境のようでした。体感的に9月下旬現在、朝晩は肌寒さを感じるような気候となっている余市です。
葡萄たちの状況は、驚くほど病気が無く、早い時期からの夜温の下がりのお陰もあり、酸を残しつつ、ゆっくりじっくり熟度が上昇するような理想的な環境となっています。そして、今年は花時期の天気が安定していたおかげで実の付き方も良く、全体収量は過去最高になる予定です。

そして何より有難いのは葡萄のポテンシャルがここ最近ではあまり見ないような(21vt除)分析値となっています。

実のところ、今シーズンの初めのころは「もう今までのような北海道の気候は来ないだろうな…」、「今年も暑い夏が長く続いて夜温も下がらず、23vtのような感じになるのだろうな…」と、半ば諦めに近い感情がありました。23vtの酷暑は葡萄への影響がとても大きく、その状況を目の当たりにしていたせいもあり、数年以内に晩腐病の蔓延や渡り鳥の滞留による鳥害の増加、極度の酸抜けとPh上昇が絶対に起こることを覚悟していました…。
ところが一転、今シーズンはお盆過ぎから夜温の低下が起こり、昼間の気候も9月には秋の様相を呈していました。今では立派な(?)秋らしい秋となっています。

ですが、やはりここ最近の本州の気温を見る限り(静岡で9月下旬40度近いって衝撃です…)どうひっくり返っても北海道が今後もずっとこんな気候であるはずがないと思っています。

せっかくやってきた恵まれた気候です。これが余市という産地で酸を残しつつ、適度に熟した葡萄が得られる最後のチャンスかもしれないのです。
このチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
なので、今シーズンは高アルコールになろうとも熟度を上げることを第一に考えて収穫日程を決めました。
状態が良ければ一部白品種は11月収穫でも良いと思っています。
周辺では早生系の収穫が数日前から始まっていますが、自分の圃場ではスティル用葡萄は来月中旬以降です。
「もうこの気候を経験できない」可能性があるし、「今シーズンのような葡萄を使って醸造は出来ない」と、ある種の「緊張感」を持って醸造に取り掛かかります。

先ほども記載しましたが、余市だけではなくて北海道の気候が年々変わってきています。
冬の寒さも2月の極寒期以外はベタ雪が降るような気候が増えました。雪の降り方もスコールのように局所的にガバっと纏まって降ることが多くなりました。
夏は夏で暑さの質が変わりました。太陽光のジリジリ感が強くなり、北海道では感じたことのない痛みような暑さを受けるようになりました。
夏のこのイメージは私が埼玉に住んでいた小中学生の頃のようです。当時は日射病という言葉でしたが、30℃を超えたら日射病になるので外で遊ばず、日影や家にいましょうと言われていたように思います。光化学スモッグ注意報も良く流れていました。
これが今から30年前の話。なので北海道もあと30年もすれば今の関東のような気候になりかねないと思うのです。
もうそうなったら、まともな葡萄は取れず、まともなワインが造れるわけがないと思うのです…。

だからこそ、今シーズンは残り少ないチャンスだと思っています。だからこそ葡萄が熟すのを待ちたい。。

閑話休題。

少し話題がかぶるところもありますが、北海道の葡萄であれば醸造的にうまくできていなくてもある程度美味しいとされるワインが造れていました。
ですが、それは今までの事だと思っています。

この地域の生産者の22vtや23vtのワインを飲むとはPhが高い印象がどれもあります。加えて全房比率が高い醸しを経ていると余計にそれが目立つ感じです。
酸化させる造りだと更に余計に取れます。どれも似たような余韻に収束されていく印象なのです。
農家のお祖母ちゃんが家で作る漬物と同じようにワインを造ると話す方もいらっしゃいますが、自分は全く同調できません。
農家のお祖母ちゃんは菌抑制をする魔法の材料を使っています。
それは味噌も醤油も同じで、長く食料を保存をするための発酵食品製造には欠かせない必須のモノです。
その正体は「塩」です。
塩が無ければ農家のお祖母ちゃんはマトモな長期保存が可能な発酵食品は絶対に造れません。
全国で唯一、塩を使わない「すんき」という漬物が岐阜と長野の一部地域で作られていますが、それは乳酸菌と酢酸菌をうまく利用して作っています。しかし、ある種の職人技的なものが必要で、今では農家でも作っている家は相当に減っています。一部食品メーカーで作っているものでも???という商品があるくらいです。ウチではスンキ用の在来品種の蕪を栽培し、スンキを作っていたこともあります。参考にしようと食品メーカー数社からスンキを取り寄せたことがありましたので、この辺のことは分かっているつもりです。

漬物をはじめとした発酵を伴う保存食品の「塩」をワインに置き換えると、それは「亜硫酸」だと思っています。
別に亜硫酸を称賛し、使うべきだ!なんていう気は更々ありません。少ない方が良いし、0に出来るなら使わないのが良いです。
現にウチのワインでもサンスフルのモノがいくつもあります。

ここにおいて問題だと思うのはマーケティングや耳触りの良い、ある種の「お花畑」的な印象を俗にいう自然派ワインに持たせることへの違和感です。
微生物学や発酵学、食品科学、或いは公衆衛生学等を勉強したことのある人は勿論、食品を扱う職業に就いている方々は微生物への危機意識というものが如何に大事かを理解しています。しかし、ことワインの話になると神秘性というか感情に訴えることがまず初めに来てしまい、微生物への意識が薄らぎます。
微生物の世界がもやしもんのような菌の世界ではあるものの、それを抑制しない方が美味しいワインが造れるなどということはないと思っています。
なので、サニテーションは大事ですし、亜硫酸も使う必要がある時は使わなければならないと思います。

亜硫酸を使わないことを目的としたワインも目に付くようになってきました。
はっきり言って順番が逆ですし、サンスフルという文言がマーケティング的に売れるとでも思っているのかもしれません。
新規参入者でそのようなワインを造っている人を見ると何だかなと思う自分が居ます。
「造りたい、目指したいワインを醸造していたら結果的に亜硫酸を使わなくても良かった」なら良いと思うのです。

先の話に戻りますが、北海道では亜硫酸を用いなくても良いワインが造れるポテンシャルの葡萄が栽培できていました。
しかし、もう違うと思うのです。
今年の気候は特別でも来年以降は分かりません。現に22vt、23vtは今までにないPhの高いワインが目立ち、モノによっては全房醸しを行ってカリウムイオンをより抽出させ、結果的に酒石酸水素カリウムを多く析出させ、更にMLFにおけるMLEやMEの影響で、最終的なPhが非常に高くなり分子状二酸化硫黄の存在量が1%以下となり、最終的にヘテロ型乳酸桿菌が酵母が資化できない5単糖や4単糖を資化したり、総酸低下による酒石酸からの酢酸生成、或いは極僅かに残った糖からの酢酸生成を行っているのだろうなというワインが目についてきました。さらにこの乳酸桿菌の働きが進むとリシン由来のアセチルテトラヒドロピリジン、オルニチン由来のアセチルピロリンの香り(俗にいうネズミ臭や豆臭)が出てきているワインもあります。
豆が出るとしつこいものは瓶熟しても飛ぶことはありません。

だから今まで問題が起こっていなかったやり方でのワイン造りをしても今後は上手くはいかないと思っています。
しっかり化学、生物学、醸造学を踏襲した上で、やりたいならばナチュラルな造りを行う必要があると思うのです。
北海道は今までは産地の優位性から高ポテンシャル葡萄が収穫できる土地でした。そこに造り手たちの甘えがあったのだと個人的には感じます。

畑の生き物の多様性に興味シンシン

2024vtの仕込みがそろそろ始まります。

畑の葡萄たちはすこぶる調子が良く、この後何もなければ過去最大の収量が見込まれます。
葡萄のポテンシャルも余市で理想とするものが望めそうな雰囲気もあり、個人的には2021vtのような葡萄が取れればなという淡い期待があります(2014vtを知りません)
2023vtがあんな気候だったので今後、北海道で今シーズンのような気候は望めないだろうな、と思っていて、可能な限り引っ張れる環境があることに感謝しています。
この夜温低下であれば、酸を残しつつ、ある程度のPh維持をして熟度上昇が期待できそうです。

ところで、ワインを造るにあたって、すべてのシーンで目に見えない微生物の働きがあります。
以前にもこちらに書きましたが、醸造と栽培という区分を設けること自体ナンセンスだと私自身は感じています。
畑仕事にて、どのタイミングで葡萄や土に手を施すかといったことは、造りたいワイン像をかみ砕き、畑仕事にその因数を反映させることだと思っています。
なので、畑仕事は酒造りの一環だという認識です。
畑仕事も醸造もすべてがワイン造りなんです。

微生物の働きと聞くと醸造を思い浮かべる方が多いかと思います。
自分ももちろんそうでしたが、最近はむしろ畑での微生物たちの働きに興味がとてもあります。
硝化細菌や根粒菌などもそうなんですが、それ以上に菌根菌をはじめとした葡萄の根圏に生息する微生物群の働きがあまりにもダイナミック、且つドラスティックなんです。
マイクロバイオームという世界があるのだという考えが自分の中で納得して落とし込まれて、より一層、畑の植生の豊かさと土中微生物の多様性が重要だと思い始めました。小さな花を咲かせる雑草やあらゆる草花、それに寄り付く虫や動物たち…それらを含め、葡萄木以外の植生の豊かさを今と同じ、或いはそれ以上を目指して畑仕事に勤しみたいです。

葡萄の収量、質も気になるところですが、目下のところ一番重要視するのは畑の生き物たちの多様性だと思っています。
当然畑管理は行いますし、良い葡萄はしっかりしたキャノピーマネジメントがあってこそ、と考えています。
そこに加えて今は畑の多様性が最重要なのだと感じています。

とにかく一つのことに集中すると周りが見えなくなるADHD気質なので(笑)、これについてもとことん突き詰めてやっていきます。

当然、不耕起、無施肥、無化学農薬で(放置ではありません)やります。

ちょっと食い気味すぎ

ここ最近思うことを。
なんで一足飛びに食い気味で事を進めようとするのか。
待ち構えている壁はそんなに低くはない。
誰かを雇えばできるとでも思っているのか。
素人が束になってもできることには限りがある。
そんな見切り発車で焦ってワインを造ってどうするのか。
支援してくれる人が恒久的に応援し続けてくれるのか。
小規模ワイナリーが乱立している昨今、もはや先行者利得は存在しない。
スピード感は確かに大事。だけどそれは地に足が着いた状態でのこと。
浮足立って始めたって消費されるのが早くなってしまうだけ。
ちょっと飲んで飽きられて終わる。
後に残るのは何なのか…。
日本ワインの今後、どうなるのだろうか。

海外からみた日本のワインについて

お久しぶりの投稿です。

今年の春は昨年のような急激な雪解けもなく、一昨年のような通常の春を迎えております。
このような気候の移り変わりであれば、ある程度の葡萄のポテンシャルが得られると思うので、9月以降の極端な暑さや夜温上昇等なければなぁと思う次第です。

ところで昨日、エコビレッジで進めているピースワインプロジェクトの関係でレバノンでワインを醸造している醸造家と話をしながら飲む機会がありました。
彼が来日した理由は、東京で開催されるRAW WINE tokyo 2024への参加、そしてピースワインプロジェクトを行っているエコビレッジでの植樹に参加することでした。ピースワインプロジェクトとは映画配給会社UNITED PEOPLEと余市エコビレッジが協業し、余市の地で栽培した葡萄からワインを醸造することを通し、多様な国籍・文化圏の人間が交流しワインを造り上げていって、その過程で人的交流が生まれ、ひいては世界平和を目指していく取り組みです。(https://upwine.jp/pages/yoichi)

そんな中で色々話をしたんですが、彼から日本ワインの海外での評価を聞きました。
大分意外だったことは、ラブルスカワインをメインに生産している本州の蔵を知っているか?と聞かれたことでした。その蔵の評価は高いですよね?と…。
これを聞いたときにの日本国内での日本ワインに対する評価(特にラブルスカで強気の価格設定をしている所)と海外の人からの日本ワインへの評価が少し乖離しているような雰囲気を感じました。
一般の飲み手ではなく、彼は25年間海外で醸造に携わっている人間だったので尚更でした。

また、日本酒の酵母菌で造ったワインはどうなのか?と。おそらく彼が言いたかったのは協会酵母を使用したワインはないのか?ということ。日本酒は非常に薫り高く、それを醸しだす酵母菌を使えばよりアロマティックなワインが出来ないのか?ということなんじゃないかと。
そもそもで日本酒は麹菌によるデンプンの糖化と酵母菌によるアルコール発酵の並行複発酵。海外ワインメーカーは糖からアルコールを産生するサッカロミセス属だけがSAKEを醸しているものと勘違いしているのか。デンプンを糖化させるワインには関係の無い麹菌がアスペルギウス・オリゼーであることや生酛や山卸廃止の生産工程なんかは理解していないのだろうなとは思ったものの、そんなことより日本酒の酵母菌で造ったワインは香高くて良いと言ったことが大分引っかかりました。日本酒の香り高さはアルコール発酵中の低温環境によるAATファーゼの活性化と、それとともに米に含まれる葡萄を遥かに凌ぐ量のアミノ酸から生成されるエステル香の元となる高級アルコールの豊富さです。それを引っ張るための一助として協会酵母が使われていますが、それがあるからこその日本酒の香りではありません。確かに一昔前のYK35に代表されるようなエステル香バンバンの日本酒も未だに人気はありますし、獺〇をはじめとする四季醸造で醸された薫り豊かな工業製品のような日本酒が海外でもてはやされている現状を鑑みるに海外の方からの日本酒を見る角度もなんだかな?と思う次第です。まぁ、海外へSAKEを売り出すときの売り文句がそれだったら仕方のないことなんですが…。

欧州の人からみた「日本」は極東の神秘の国、オリエンタルティックな印象を強く持っているようにも感じました。深くSAKEについて理解せずとも単純に感覚的に日本の伝統的なアルコール飲料は何か神秘的なものがあるといった感じなのか、と。
なので日本ワインを正面から見ているのではなく、「日本」という地に対してのセンチメンタルな感情を通してのワイン評という感じです。
それは例えば、シルクロードを長い時間をかけ、ようやくたどり着いた日本に甲州という名のヴィニフェラが存在していて、ワインが造られている、その事実を知った欧州人が甲州に対して強い関心を持つ人が一定数居ることにも共通することだと思います。

結局嗜好品のアルコール飲料は日本人も外国人も関係なく頭で飲んでいるんだなという感想です。
海外輸出のお話は有難いことにいただく機会もありますが、日本ワインが中身と価格のバランスが取れていないと思うことも多々あるようにも思い、持て囃されているウチが華だと感じてしまいます。それを履き違え、海外高級レストランで尋常ではない価格帯で提供されている現実。結果として率先して輸出を進めている蔵もありますが、国内消費に対して十分な量も供給できていない状況で海外進出とは甚だ可笑しな話だなと感じる次第です。国内消費で捌けきれず海外に出さざるを得ないワインも一定数ありますが、それが先の理由も相まって海外で存外評価されていることは本当に意外でした。
日本が色々な意味で沈没しつつあって、今後のマーケティングを考えた上での海外進出、或いは逆輸入的に持て囃されるワインを目指すというパワーがあるのなら…売り方以上にワイン造りに心血を注いでみても?とも思いました。

小規模ワイン農家の持続可能性について

今シーズンの収穫も残すところあとわずか。
醸造は来月いっぱいまで気の抜けないところ。

今年は夏の暑さ、湿気に加えて収穫期の鳥害の多さと、農家にとっては深刻な被害を多く耳にしました。一方で余市は空知や蘭越など他地域と比べたら鳥害は多くは無い印象です(例年よりは多いですが)話に聞いている限り、鳥害の影響で収量がなくなるレベルというのは自分の周りでは居ないように思います。それ以上に影響を受けたのが、気温上昇と湿度の高さからくる病果だと感じています。樹勢コントロールと土壌から如何に窒素分を抜といった(菌根菌や根粒菌を含めた窒素固定細菌の固定以上の窒素量を無くす)施しを意識して行っているが肝だったかと思います。
ウチの白品種は樹がより落ち着き始め、房の大きさが小さくなった影響で昨対で2割減程度ですが、マストの質は上がっています。黒品種は育てているのが中生種ということもあり、引っ張っている影響で病気は出ていますが、目も当てられないほどではありません。結局どこに力点が置かれるかだけな気がします。

それと酸の落ち。
葡萄は今シーズンのような気温上昇と夜温の低下がない状況であれば、除葉を無くそうが何しようがリンゴ酸やクエン酸が呼吸で消費することは自明です。酸の消費は日射が当たることではなく、気温の影響が大きいです。このようなシーズンでは引っ張る場合、酸の落ちを抑えるような栽培方法はないように思います。強樹勢にして熟すタイミングを後ろ倒しにするとか、大量に房をつけて熟させないとかは出来ますが、ワインへの悪影響が大きくてやる価値は全く見出せません。そして酸の落ちは糸状菌の餌食となります。
やはりそこで重要なのは植物体の窒素量だと考えます。病気に侵されたり虫に攻撃されたりするのはそこです。自分は葡萄畑において他からの窒素供給は必要ないと感じます(反収1tとか目指さない限り)。窒素固定細菌、菌根菌の働きだけで十分です。今シーズン、反収500kg以下とかでやっていて病果が出ているのであればやはり窒素量が問題なんだろうと思います。あとは水捌けか。軟化期以前の葡萄がベトや灰カビ、バンプに侵されるのは分かりますが、ヴェレゾン後に病果がエライことになっている畑は土壌のバランスに何某かの問題を抱えているように思います(極端に引っ張ることを除いて)。これも農業の持続可能性に繋がる気がします。

結局、病果が大量に出ると病果除去が非常に手間になります(病果関係なく醸造されているところもありますが)。小規模生産で動ける人間が家族のみという農家の場合には、他の葡萄の収穫が待っているのも関わらず、そんなことに手が回せるか甚だ疑問です。そして私も含め多くの小規模生産者を見るとボランティアの手を借りているのが実情です。集めているのか、向こうから来てくれるのかは関係ありません。それって価格には反映されていませんが、反映したとしたら結構な値段のワインになってしまうんだろうと思います。
ボランティアさんに来ていただくことは大変ありがたいですし、助かる面があるのは事実です。でも、「自分たちの中でしっかり回す農業」というものを考えた際、ボランティアさんの力を最初からアテにする営農はどうなのか?と思うようになっています。突き詰めると「それって自分の造ったワインなのか?」とも考えられます。みんなのワインならいいのかな?いくら病果が出ても助けてくれる人がいるから大丈夫、と少しでも思う気があるのなら、だいぶ温い感じがします。

収穫期については自分は色んな方の力を借りてしまっているので中々難しいですし、変えていかなければとは思っています。うちは今シーズン、収穫期以前のボラさんのお手伝いは極力絞ってお断りするよう努め、自分の力だけでやろうという試みをしました。来年以降どこまで出来るのか、やり方についても色々試行していく必要があるなと感じています。
ボラさんの力を借りなくても持続できる営農とは?色々考えさせられるシーズンでもありました。

僕には人を惹きつけるようなワードセンスがない

ご無沙汰しています。
ここ最近ブログの更新を全くしていませんでした。
意外と生産者さん(そこのあなたです…笑)が閲覧しているようで、思っていることを何でもぶっちゃけるのは如何なものかと最近思うようにもなりました 笑

ところで、今シーズンはとても作業量が増えました。
原因はおそらく雨と高温による新梢の旺盛な発育に起因します。
枝整理をやってもやっても追いつかない。
枝整理を怠ると葉ベトが多発。本葉に出なければ大丈夫と思いつつも、私なりの考えで葉数はもともと少なく調整しているので微妙なところ。
そのため今シーズンはベトとの共存という感じでやっていってます。来年の枝の登熟は問題ない範囲くらいの被害です。
まぁ実ベトがあまり出なかったのは例年と同じでしたが、葉のベト罹病率はだいぶ高かったです。

高温多湿以外にベトが多いなぁと感じることになった理由としてクロヒメゾウムシの多発があげられますかね。
今シーズンは俗にいうチョッキリ虫に開花位から結果枝を切られまくり、意図しない超早期摘芯が行われた形になりました。
直後に側芽が芽吹いてズバーーッと伸びてくるんですが、やっぱり本来ならば来年芽吹く芽なのでデンプンをはじめとしたエネルギーの蓄積も少なく、出てくる葉は本葉と比べると葉緑素が少なくて弱弱しいものです。当然ベトの餌食です。
超早期摘芯された結果枝の側枝がベト病に罹病するケースが多いのです。超早期摘芯を行うと花が振るわず、立派な房が出来ることもよく分かったのですが、葉が確保できないので切り落とすことも儘あります。

こんな感じの今シーズンでしたが、収量としてはピノブランの収量が上がりそうで、全体としては過去最大の収穫となる感じです(この後何もなければ…)
今年の仕込は色々とやってみたいこともありますが、蔵状況と相談しつつ作業に取り掛かろうと思います。

収穫まで1か月を切りました。
9月は見守る時間が増えそうですが、畑作業に勤しみたいと思います。

将来の葡萄産地をかんがえてみた

北海道の特に余市・仁木エリア、そしてモンティーユが入植したという事で函館、また岩見沢は、葡萄産地としてもしかしたら世界的に注目を集めつつあるのかもしれません。
そう感じたのは今年度の余市町の協力隊の隊員に香港人と台湾人が入り、今後も余市町でワインに携わりたいという意向があるという事を聞いたからでした(人伝ですが)

冬の間、今後この葡萄産地がどのような変遷を辿るのか色々考えを巡らせていました。
何となくですが、最近だとこのエリアでは個人の新規入植希望者が減り、逆に法人が増えてきた印象があります。
もしかしたら役場で帰らされている個人がいるのかもしれませんが。
異業法人からの新規農業参入については全く否定するつもりはないですが、問題はその先にあると考えています。

この地域は首長や発言力のあるワイン関係者含め、法人格の受け入れについては前向きな印象があります。

異業法人の新規参入となると3,4年という短いスパンでの損益について考えることが多いのかな?と考えています。
現に一昨年仁木町にあった、ある法人管轄のヴィンヤードは札幌の法人へ畑を売りました。
岩見沢方面でもワイナリーの売買の話も聞きますし、余市・仁木では個人から生産法人への畑販売もよく聞きます。
今であればワイン葡萄畑ならば農地購入時より高価格で転売が可能な場合も十分にあると思います(農業委員会が絡まない形を取れば)
異業種から来たのであれば投機的な志向を持ちつつ営農を行うことは当然ですし、ほぼ居ないですが個人でやっていてもそうなのかな?と感じる方も中にはいます。

そこで将来起こるのではないか?と感じていることが、海外資本への農地販売です。
これについては農地法第3条が発動し、農業委員会の監視があるため農地売買については制限がかかるのでは?とお思いかもしれません。
ただ、これには抜け道があります。
例えば法人Aが個人の農業者から農地を購入し、農業生産法人Bを設立したあと3,4年経営し、販売したい意向が出てきたときに購入意志のある法人Cが農業生産法人Bごと買収するケースです。
M&Aという言い方が合っているのか分かりませんが、企業買収を行う場合は代表者の名前が変わるだけであって、農業委員会から見た時の農業生産法人Bの存在は変わるものではありません。
そのため、この際の企業間売買においては農業委員会が出てくることはありません。

ここからが私が不安視していることです。

ご存じの通り、北海道の土地は現在水資源、観光資源含め海外資本に購入されていっています。
隣村のkiroroスキーリゾートやTOMO PLAYLAND、ニセコ町のスキーリゾートなどはその典型だと思います。
不安なところというのは、昨今の日本ワインブームを背景にワイン葡萄産地としての認知度が上がりつつある、余市や仁木、函館のヴィンヤード、ワイナリーに対し、食指が動いている海外資本があるのではないかという事です。
現に今年度から協力隊としてやってきた香港や台湾の方は北海道のワインに興味を持っていることから、海外の人たちが興味を持ち始めていることは事実だと思います。
そこに対して3,4年で利益が出ず、当初から投機的な意味合いも含めて農地を運営していた日本の農業法人に海外資本が購入意志を持っていることが分かれば農地を売らないわけがないのかな?と感じています。

これについては北海道だけの問題なのかな?とは思っている部分はあります。
理由としては、北海道については農地を「売ること」についてのハードルが低いことが挙げられます。

また、ニセコが海外資本だらけのスキーリゾートとなった背景には2000年代前半にNACを創業したロス・フィンドレー氏の存在があります。
彼がニセコの自然や雪質の高さに驚き、海外へその魅力を発信したことが現在のニセコ山田地区を形成させています。
そうなるとニセコの時のように現地に繋がりを持つ海外の方がワイン葡萄関係の仕事に就くという事が資本力のある法人の参入を誘導することもあるのかな?と考えてしまう自分がいます。

北海道のワイン産地にはそのポテンシャルがあるようにも思いますし、海外からの入植を目指す人が来た現状から考えるに海外資本によるヴィンヤードやワイナリー経営も近い将来始まるかもしれません。
それが良いことなのか悪いことなのかは分かりません。
しかし自分は静かに静かに、例えば紙に水が滲んでいくように徐々にじんわりと北海道のワインのことが世間に広まれば良いなと感じています。
前のめり、食い気味な感じで北海道のワインを世界へ向けて発信しようとする意志には危うさを感じています。

年が明けました

2023年が始まりましたね。
今年は剪定が昨年中に終わり、ゆっくりとした年始を送っています。
醸造は今年で7年目に突入しますが、まだまだ分からないこともあり、目指すべきワインのスタイルはあるも如何に近づけるか、畑作業から見つめなおし自分の中で思考の反芻を行っていく次第です、鹿を追いつつ…。
先シーズン学んだことは、醸造とは北風と太陽なんだということです。
収穫した葡萄に無理強いしても納得出来るワインを造ることは出来無いと感じました。
自分の理想はあるのかもしれませんが、エゴでそれを頑なに目指すのは違うのではいかと。
この土地で、自分の目指すべきワインを造りだすために必要な葡萄を畑作業で…というのは第一にありますが、やはりその年の天候に逆らうことは出来ません。
葡萄の熟度(糖度ではなく、熟度です)は異なりますし、酸やPH、そしてアミノ酸の含量、ひっくるめると葡萄の果粒を組成するすべての物質のバランスが年により異なるのです。
自分の目指す、造ってみたいワインは何なのか。それを造るために醸造上、どこでどのような手を加えるべきなのか、何となく掴めているような気はします。
ですが、葡萄のポテンシャルは先にも述べましたが、年のより大いに異なります。

極端な例ですが、雨が多く、日照時間も平年より少ない年の葡萄は病気が多くなることが考えられます。
そうなると植物は自身の繁栄を考え、種を守るため、平年よりファイトアレキシンなどフィトクロームに富んだ葡萄を実らせるかもしれません。
また、雨が多いため樹中に還流する水分は多くなり、平年より果粒がNを吸収しているかもしれませんし、酷いと水っぽい果粒になっている可能性もあります。
ファイトアレキシンやアンティシピンは、ある種のフェノールに分類されますが、人にとってはエグミや未熟さにも直結する可能性があります。
例えば、このような黒葡萄で赤ワインを造ろうとしたとき、自分の目指すスタイルが旨味、甘みのあるタニックさもありつつ、骨格としての酸もメリハリがつくレベルで残したいとなると醸造上、抽出が非常に困難になると思います。
つまり、元々の葡萄のポテンシャル以上のワインは出来ないということです。
造り手は、葡萄の持っているポテンシャルの中で醸造を行わなければならないため、無理なことを行えば必ず何かしらの弊害が香り、味に表出してきます。
造りたい人間のエゴから生まれるワインは惹きつけるものが薄く感じられるのはそういうこともあると考えます。
大量生産、画一的な造り、添加物の使用、ろ過、培養酵母等々。
更に付け加えるならば、年により造りを変化させない画一的な醸造については規模の大小は関係ないとも思います。

言い換えると、毎年同じ造りを行うことは葡萄のポテンシャルを活かせていない状況だと私は考えます。
つまり、自分の造りたいワインの着地点にある程度の幅を持ちつつ、譲れない根っこ部分をぶらさず、その上に作り上げる構成要素を変えられれば良いのではと考えます。
余市の葡萄は11月近くまで吊るせば糖度はある程度行くことが分かっています。
しかし、先にも述べたようにそれ以外の要素は年による違いが大いにあるのです。

北風と太陽。
無理強いしても葡萄は笑顔になってはくれませんし、逆に引き出せるものがあるにもかかわらず同じ造りを行うことは勿体ないことです。

やっぱり思うこと

2022vt仕込みも大詰めとなり、醸造シーズンの岩見沢生活も両手で数えるほどになりました。

自分なりに病果が広がらない範囲で引っ張れるだけ引っ張りました。
収穫の大多数は10月の下旬に固まる感じになり、食味・分析値においても満足しています。
収量も順調に伸びました。
窒素の循環を考えた時にちょうど良いレベルで畑が維持できる収量くらいに落ち着いたことはとても良かったです(収量コントロールをした上で)
今のことろ発酵は順調で、白のいくつかは発酵が終了しつつあります。
赤はコールドソーク中です。
下部のマストではサッカロミセス属が弱く、ですがしっかりと発酵を続け、ベリー内では酵素によるアルコール置換が行われています。

所で、岩見沢シェアハウスのメンツと先日飲んだ時改めて思ったことがあります。
それは農業に取り組む姿勢、意識について。
自分は有機だとか自然農だとか慣行農法だとかぶっちゃけ葡萄の質においてはそこまで変わらないと思っています。
なので、有機「だから」、自然農「だから」という理由で異様に高い価値を付けるのは違和感があるのです(付加価値はあると思います)
野菜にしろ、ジュースにしろ、もちろんワインも。
そして、最近有機、オーガニックだとか殊更強調される風潮がありますが、本質はそんなことではないということです。
「その人間が何を目的に農業をしているのか」
その点だけです。

有機JAS認証でも使える資材はご存じの通りいくつもあります。
その中には認められている「農薬」もあります。
他には分解されないとのことで、シリコン製の刈払いブレードやナイロンコード、CCA木杭(CCAは相当に疑問符が付きますが)なんかもそうです。

でも、有機を謳う条件さえ満たせば何を行ってもいいのでしょうか?(それ以前にそれすら満たしてもいない人も大勢いますね)

有毒性が多方面から指摘されているCCAは有機でも認められているから普通に使う(今後有機認証はされないはずです)、ナイロンコードは目に見えないくらい細かく刻まれて畑に飛散し、回収はできなくなるけれども有機での使用が禁止されていないからいくらでも使う(これ喰う動物がいないだけでマイクロプラスティック問題と同じですから)
CCA処理の資材に関しては本当に危険だと確信しています。
野積みにしている状態で経年させると土壌へのヒ素、クロムの流出が顕著で植物や地下水への影響が高確率で発生することが証明されています(銅はそこまで高くないとの報告)もちろん野焼きなど論外です。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010781048.pdf
昭和40、50年代に発表されている古い文献にはCCAは環境、人体に対して問題ないという報告が見られますが、近年の報告を見る限りその根拠には相当に疑問があります。
本当にCCAの使用だけは控えてもらいたいです。
あと有機JAS認証では認められていませんが光分解性テープナーについても同じです。
あれは分解ではなく、劣化→崩壊という流れです。
光による劣化でプラスチックが硬化し、その後崩壊していくというものだと思います。
畑には目に見えないだけでいつまでも細かいプラスチックが残留しますよ。
M〇Xに問い合わせましたが、成分など詳しいことは企業秘密のようでお教えくださいませんでした。
乳酸菌が作っている生分解性マルチとは別物です(これも有機JASでは使用できませんが)

結局、これらって本人が何を目的にしているのかというと「有機」という言葉を使いたい、その一点だけだと思うのです。
これらを使うと確かに作業は大幅に楽になります。
木杭の打ち換えは必要ありませんし、葡萄の樹を傷つけるリスクも減る。
でもそれって、未来に残す畑環境や地球環境、経済面以外の永続的な営農に繋がることなんでしょうか?

私には疑問です。

私は有機でやっているのであれば、有機JASは常々取るべきだと考えています。
書類が面倒、余計な出費なんてのは言い訳でしかないと思います。
取るべきだと考える理由は、「有機」「オーガニック」を言いたいからではありません。
過去にもこのブログで記載しましたが、一つは消費者への担保としてです。

顔の見える関係で地域内で消費される米や野菜を自然農や有機で栽培しているのであれば有機JASなんか取る必要など全くないと考えています。
ですが、加工品、特にワインなどは、「いつ・誰が・どのvtを・どこで」消費するか分かりません。
有機のみにこだわって飲むワインを選択している人はそう多くはないと思いますが、そのような人たちに何も言わずこのような第三者機関の認証は担保となると思うのです。逆に、例えばですが自然農や有機で野菜類を育て、お客さんの大多数が顔の見える関係を築けているような素晴らしい環境下であるのならば、有機JAS認証を取る必要は全くないと考えています。なぜなら、お互いがその人となりを理解しあい、互いに信頼関係が築けているからです。
私が調査対象にしていたCSAの営農形態は正にそのような営農形態ですね。

ちなみにここ最近有機加工酒類(醸造所の有機認証)についても管轄が国税から農水に変わったことで、ある意味お酒においても有機認証を取得しやすくなりました。
ですが、自分はそこに対しては全く興味がありません。
この大地で農業を行う上での考え、指針、哲学においてやっていることがJAS有機認証の延長線上にあるからだけで、醸造所での認証には意味がないと思うからです。
なのでワインのエチケットに有機JAS認証マーク貼りたいとは全く思いません。

加えて似非有機農業の跋扈も気になります。
そもそも有機JAS法が制定された背景は、90年代後半に市場にあふれた数多くの似非有機農産物に端を発します。
少しでも有機肥料を与えたから「有機」農産物を謳うなんてことはザラにありました。
自分も今から15年くらい前に有機農家の経済分析を行っていましたが、自称有機農家の行っていることの「いい加減さ」も多く見てきました。
大概彼らは有機JASを見下していますが、有機JASを取得できるのは半数も居ない印象でした。
でも、今跋扈しているそれは本質的には90年代後半に起こったことと大差がないと感じています。
それは文句としての「有機」が欲しい人たちという共通項が見えるからなんだと思います。

自分は環境に負荷をかけない永続的な生活を送りたいという想いで農業に携わっています。
その上で先ほどの理由が加わり有機JAS認証を取っています。
なので、有機JASで認められていても使っていない資材は数多くあります。
聞かれれば答えますが、積極的にそれを言う気もありません。

自分に正直に正々堂々と営農、醸造を行い続けたいを改めて思った飲み会でした。

嬉しい発見

今シーズン、少しうれしい発見が畑でみられています。

それは半翅目であるセミがボーペリア菌に感染し、圃場内で逝っている状況が散見できることです。
ただの亡骸ではないです。
菌に感染して亡くなっています。

ボーペリア菌という冬虫夏草(セミの幼虫とかから茸生やす菌です)と似た、昆虫に取りつく糸状菌の一種です。

なんでこれが嬉しいのか。

同じ半翅目であるカメムシも当然この菌が感染し、死滅させる力があるということが分っています。
そして、ウチの畑でボーペリア菌がちゃんといるということが判明しました。
それが嬉しい 笑

日本にはごくわずかですが、米国からボーペリア菌を利用した農薬も輸入されていますが、自然にこのように存在している菌なんですね。

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